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お茶を飲み、お菓子を食べた。
悩みごとの相談をするためにここへ来たはずだけど、話の内容は〝新しくできたお店で売ってるクロワッサンが美味しい〟とか、〝そこの道をまっすぐ行くと、誰かの秘密基地に行ける〟とか、そんなのばっかり。
いつになったら、ボクの悩みが話の真ん中になるんだろう。
「あれ? そういえば、二人はどうしてここへ来たんだっけ?」
「あ、えっと、トッドが――」
「おっと。トッドのことなら、マイクじゃなくて、トッドから聞きたいな。どんな用があったんだい? トッド」
「え、ええっと……」
ボクはお菓子を掴んだまま、動けなくなった。
話したいことは、喉のあたりにあるんだけれど、どうやって話したらいいのかわからない。
さっき、ミヤナさんと話したときは、どうしたんだっけ?
あれ? マイクが勝手に、ペラペラしゃべってくれたんだっけ?
「ゆっくりでいいから、トッドの言葉で、聞かせておくれ。私は、キミと仲良くなるために、キミのことを知りたいと思ってる。話すことは、何でもいいよ? モヤモヤの話じゃなくてもいい。だって、キミを知らない私にとって、キミの話はどんな話でも新鮮で、面白いものだから。頭の中できっちりとまとめてから話してくれてもいいし、ごちゃごちゃしたまま口に勝手にしゃべらせてもいい。話がごちゃごちゃしていたら嫌って人も、世の中にはいるだろう。でも、私は気にならないから、気にしないで」
「頭の中も、部屋の中も、散らかっててもヘーキなんだもんな。そりゃあ、人の話が散らかってても、文句言えないよな」
「こら、マイク。なんだか今の言葉、棘があったぞ。チクチクしたぞ」
「ごめんごめん。でも、事実」
「そうだ。事実だ。でも、私はこの状態であることに、苦痛を感じていない。なんなら、この状態であることが、心地いいんだ。誰かから見たら変で、おかしいのかもしれない。でも、私にとっては、変でもおかしくもない。それなのに、言葉の裏側に〝こうであるのは良くない〟みたいなメッセージを隠して、刺々しく言われるのは、心地悪い」
「だから、ごめんってば!」
マイクは不貞腐れた顔をして、お菓子を口に放り込んだ。
「それで、トッド。話を聞かせてくれるかな?」
「あ、えっと。ボク、友だちと、なんかちょっと。ケンカ、じゃないんだけど、そのぅ……」
「うんうん」
「その、えっと。その子が、なんか怒ってるみたいで。ボクにこう、刺々しい感じっていうか」
「さっきのマイクみたいな感じかなぁ」
マイクはチモキさんに向かって、べぇっと舌を出した。
チモキさんは、それを見て、ニッコリ笑う。
マイクはチモキさんの顔を見て、今度はあっかんべーをした。
チモキさんは、ニッコリ笑ったまま、両手を合わせて、ペコペコと頭を下げる。
言葉にはしないけど、たぶん、「ごめんね」って言っている。
「それで、それで?」
「何か、したかな? って思って。だから、『ごめん』って言ったんだ」
「何をしたかわからないけど、とりあえず謝ったってこと?」
「そう」
「う~ん」
チモキさんはむずかしそうな顔をして、腕組みをして、首を左右に揺らし始めた。
チモキさんが悩む時の癖なんだろうなって、ボクは思った。
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