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スープの冷めないところで
結婚式を五日後に控え、わたしが実家に帰ったのは三日前のことだ。
実家は、わたしと裕利が暮らすマンションから、それこそスープの冷めない距離にあり、ちょくちょく顔を出していた。
でも、「結婚式当日は、あいさつをして家から嫁いで欲しい」というわたしの両親の願いを叶えるため、一度実家へ戻ることにしたのだ。
三ヶ月間同居していたから当然だけど、マンションは、新婚生活に向けた準備がすでに整っている。結婚式までは、実家が隣県にある裕利が、最後の独身時間を満喫しながら一人で留守番をしてくれることになった。
「羽を伸ばしてもいいけど、伸ばしすぎてとんでもない所へ飛んでいったりしないでね!」
「心配いらないよ! 来週は一週間休暇をとるから、今週はその分忙しいんだ。それに、結婚祝いの飲み会が二つ入っているし……。沙耶に内緒で、遠くへ飛んでいってる暇はないと思う」
「どうだか……。何かあったら、必ず連絡してね」
「うん。何にもなくても、毎日連絡するよ」
そんな会話をして笑い合った後、ちょっぴり長いキスをして、わたしは仕事に出かけた。
その日も、その次の日も、何ごともなく過ぎていった。電話やメッセージで連絡を取り合い、会わなくても緊張感や期待感を共有しながら過ごしているつもりだった。
今朝になるまでは――。
金曜日ということもあって、夕べの飲み会は遅くまで続いたらしい。裕利からの「おやすみ」の連絡がきたときは、11時を過ぎていた。
今朝は、土曜日だし朝寝をしているんだろうなとは思ったけれど、9時になってもメッセージが来ないのでさすがに心配になった。
だから、ようやく届いた「急いで戻って来て!」という彼からのメッセージを見たときは、取る物も取り敢えずマンションへ駆けつけた。
電話をしても出ないくせに、「誰にも言わないで来て」「鍵は自分で開けて」といったメッセージだけは次々と送られてきたので、不安を募らせつつ部屋へ入ってみたところ、こんな状況になっていた――。
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