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金曜日の夜 <裕利の話>①
夕べは、大学のときのゼミ仲間で今でも付き合いがある連中が集まった。
沙耶も知っている山際が、みんなに声をかけてくれたんだ。
五人のうち二人は既婚者で、俺を含めた三人が独身。同業者の男ばかりだから、家庭やパートナーのこととか、仕事のやりにくさや面白さなんかをざっくばらんに話してた。
ところが、飲み始めて一時間ぐらいたった頃、もう一人来たんだよ。
誰も誘った覚えがないし連絡もとっていないのに、どこでどうやって知ったのか、黒坂美奈世って女が店に入ってきて、俺たちに手を振ったんだ。
黒坂はゼミにはいたけど、五人の誰かの彼女だったことはないし、仕事上の付き合いがあるやつもいない。みんな突然の彼女の登場に、首を傾げていた。
でも、せっかく来てくれたのに邪慳にもできないから、席を用意して酒をすすめた。
俺の結婚を祝う乾杯をやり直してから、大学時代の当たり障りのない思い出話をしていたら、不思議なことにみんなの携帯へ連絡が入り出して、次々と帰ることになったんだ。
最後に残ったのは、俺と黒坂と山際の三人だった。
その山際も、奥さんから買い物を頼まれたとかで、コンビニに寄らなきゃいけないから帰ると言いだした。黒坂はまだ飲み足りなそうだったけど、このへんでお開きにしようということになった。
支払いをする山際に呼ばれてついて行ったら、妙なことを言われたんだよ。
「あのな、おまえは鈍感だから気づかなかったみたいだけど、黒坂は、おまえのことが好きでゼミに加わったんだよ。彼女については変な噂も聞いてたから、おまえが近づかないように気をつけていたんだが……。どうやって探り当てたのかはわからないけど、今夜ここに現れたってことは、今でもおまえに気があるってことなんだろうな」
「黒崎が俺のことを? まさか! 卒業以来、今日まで会ったこともなかったぞ!」
「まったくわかっちゃいないな、おまえは! 知らなかっただけで、意外と近くをうろついていたかもしれないぞ! おまえはともかく、沙耶さんを悲しませるわけにはいかないからな……。よし、俺が先に外に出てタクシーを呼ぶから、おまえは黒崎を連れてこい。店を出たら、黒崎をタクシーに乗せてさっさと帰らせよう。それが一番安心だ」
「まあ、女性を一人で帰すわけにはいかないもんな……。わかった、今呼んでくるよ」
そんなことを言ってた俺は、本当にまったくわかっちゃいなかったんだ――。
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