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嫉妬
嫁入りして三日目の深夜、いつものように白玖が部屋に訪れた。
白玖はやはり、深夜にしか訪れない。昼間なにをしているのか気になったが、聞く気にはなれなかった。
しかしその日やってきた白玖は、むっつりとしていた。
「……なんですか?」
「なにがだ?」
被せるように質問返しされ、橘花はむっとする。
「……だってなんだか、機嫌が悪そうなので」
いきなりやってきて、ふくれっ面をされても困る。
「…………」
橘花は困ったように白玖を見た。白玖はしばらくむっつりしたあと、橘花の眼差しに根負けしたように息を吐いた。
「……焼き菓子」
「え?」
白玖は、聞こえるかどうかくらいの小さな声で呟く。
「……俺があげた焼き菓子。珠が嬉しそうに持っていた。橘花からもらったと言っていた」
白玖は口を尖らせて言った。
「……もしかして、焼き菓子を珠に譲ったから怒ってるんですか?」
図星をつかれたことが余計苛立ったのか、白玖は、
「怒るだろう! 俺は橘花にあげたのに」
と言った。
そういうものなのか、と橘花は反省した。まさかそんなに機嫌を悪くされるとは思わなかった。
「……ごめんなさい。もうしない」
しゅんとした橘花に、白玖は慌てる。
「あ、いや……責めているわけじゃない。ただ、寂しかっただけで」
「食欲がなくて……食べられなくて悪くするより、珠が食べてくれたほうがいいと思って」
呟く橘花に、白玖はハッとした。
「食欲がないのか?」
「……まぁ、はい」
橘花は小さく頷く。
「……なにか食べられそうなものはあるか? 用意する」
「いえ、べつに大丈夫です。どうせ……」
抗ったところで死ぬのだし、と言いかけて、口を噤む。
さすがに白玖の前でそう言うのは不謹慎だろう。
「……じゃあ、プリン」
ふと、そんな言葉が口をついた。
「プリン? プリンが好きなのか?」
「あ、いえ、食べたことはないのですが……珠が好きだと言っていて。あまりに嬉しそうに言うから、食べてみたくなって」
「そうか。分かった。明日には用意する」
「……ありがとうございます」
プリンがどういうものかは知らないけれど。
白玖がくれたものなら食べられる気がする、と橘花は思った。
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