光の見えぬ貴方に向けて

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気持ち悪い 香水、制汗剤、加齢臭、洗剤、弁当、汗 色んなものがごちゃ混ぜになった匂いに吐き気を催しながら松宮玄(まつみやはるか)はよろよろと駅の壁に背を預けた。 (あぁお気に入りのワンピースなのに) 若干汚れてしまっただろうがこの際仕方がない。どうせもう着ないのだから。息を整えようと深呼吸をしようにも湿気のこもった空気のせいで悪臭が充満している駅構内では逆効果であった。 あと少し我慢すればいいのだから そう自分に言い聞かせながら姿勢を戻すと玄はホームに丁度到着した電車に乗った。先程まで乗っていた電車とは打って変わり、海へ向かうこの電車には乗客が自分しかいなかった。人気のなさにホッと一息をつくと玄はガタゴトと揺れながらぼんやりと窓の外を眺めていた。 「初めての一人旅だ…」 思えば今まで旅をしたことなどない。学校行事にあった林間合宿も修学旅行も面倒くさくて行っていない。両親は共に多忙で休日の日ですら碌に顔を合わせる事がなかったから旅行なんて行った事がない。高校生になった今となっては寂しいと思う事すら無くなった… トンネルに入り、窓に自分の顔が映ったとき思わず自嘲の笑みが零れてしまった。 涙でメイクは剥げ、酷く濃い隈と削げた頬が露わになっている。 「ひっどい顔」 せっかくお気に入りの白のワンピースを着てきたというのに、これでは台無しだろう。 まぁ誰かが見るわけではないのでいいのだが トンネルを抜けると先程まで見えていたビル群が嘘かのように長閑な田園風景が見えた。少し遠くには太陽に反射して虹色に光る海が見える。 車掌の 「次は終点~」 という伸びやかな声に慌てて荷物をまとめると席から立ちあがりドアの前に立って到着を待った。
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