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色とりどりの風景画が並ぶ中、彼の絵だけは真っ黒で異質であった。
皆が其れを一瞥し去っていく中、女は一人でその絵を『視て』いた。
閉館時間が近づいても尚、絵の前から動こうとしない女に警備員がためらいがちに声をかける。女はハッとしたように顔を上げると警備員に頭を下げた。
「ごめんなさい…でも、あと少しだけ」
そうですかと警備員が去って行った後、女は顔を覆うほど鍔広の麦わら帽子をやっと脱ぐと胸の前に手を合わせ、顔をうつむけた。雫が頬からこぼれそうになった時、女はサッと顔を上げると何かを堪えるような顔をして真っ黒な絵の前から去って行った。
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