一粒の黒

1/1
前へ
/7ページ
次へ

一粒の黒

 私の中の西園寺さんへの感情は混ざり合わない。重なり合って存在している。白い空間に一粒の黒。  いつも確定しているのは憧れの白だ。西園寺さんとの仕事を喜び、全力であたる。そして時折、交わされる洒落た会話を楽しむ。私自身が高いステージに引き上げられるような気がする。  言動に出す事は決してしない。表情に出すこともない。何かの引金で一粒の黒が確定される事がある。私は支配される。  怒り、侮蔑、嫉妬、憎悪。そんな感情が凝縮された黒。  全身の血が激しくうねる感覚とともに、感情が暴れ、出口を求める。でも、どこにも出口を与えられない感情は私の中で爆発し、私をひどく汚した。苦痛なんかでは無かった。それは、はしたない程に甘く、官能的な愉悦で私を黒く染め上げた。  私はべとついた飴のような一粒の黒を心のどこかで愛してさえいた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加