人類の敗北

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人類の敗北

 島田先輩の指揮の元、14時に企画書完成の運命は確定された。ちょうどそのタイミングで西園寺さんが外回りから帰って来た。 「西園寺さん、質問です」と島田先輩がすかさず声を掛けた。 「何かな?島田さん」と西園寺さんは微笑む。周囲の空気もそれに合わせて柔らかみを帯びる気がした。「すまないが、すぐにまた出なければならないのだ。込み入った要件なら、後でまとまった時間を取ろう」 「いえ。大した事ではありません」と島田先輩は言い、口角を上げた。「クロワッサンはどうやって召し上がりますか?」  周囲に軽い緊張が走った。私は笑い出しそうになり、思わず下を向いた。  一瞬、西園寺さんは何の事か分からなかったみたいだ。目を何度か瞬かせた。   「どうって……普通に食べるよ。大きければちぎって食べるかな」 「パン屑は出ますか?」 「ああ。どうやってもパン屑が落ちるね。何か上手い方法は無いものかね」と西園寺さんは言い、首を傾げた。 「いえ。私たちも考えてみたのですが、上手い食べ方はないみたいなんです。西園寺さんなら何かご存知かと。ありがとうございました」と島田先輩は言い、軽く頭を下げた。 「有意義な答えが出せず、済まなかったね」と西園寺さんは言い、足早に去っていった。  西園寺さんの姿が完全に見えなくなると、何処からか笑い声が湧いてきた。笑い声が収まりかけた時「人類はクロワッサンに敗北したのか」と武田くんがぼやいた。 「ミスターエレガントでも駄目だったか」と島田先輩は言い、天を仰いだ。
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