カフェ・オ・レ

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カフェ・オ・レ

 そうだろうか。本当に西園寺さんはクロワッサンに負けたのだろうか。いや違う、と私は思う。  私はクロワッサンを食べる西園寺さんを思い描いた。  彼の繊細な指からこぼれ落ちる破片はまるで落ち葉が舞うように美しいだろう。そしてクロワッサンを食べながら、コーヒーカップを傾けるのだ。この上なく優美な仕草で。いや。違う。コーヒーじゃない。白黒つけない西園寺さんにはコーヒーは似つかわしく無い。彼が飲むのは黒いコーヒーと白いミルク、均等に混ぜたカフェ・オ・レだ。  きっと西園寺さんはクロワッサンに負けたりも勝ったりもしないだろう。  私の中の一粒の黒はいつか溶けて無くなるのだろうか?これが溶ける事は許すことや受け入れる事と同義なのだろうか。  カフェ・オ・レを飲み干す、西園寺さんは全てを受け入れ許しているように見えた。    
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