第21話 アスハ、故郷に還る

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お姉さんはともかく、お父さんも女三人の会話は全く耳に入らなかったはずだ。そう考えると確かに、不躾な感じはしちゃうけど。同席してるお父さんとアスハを除け者にしてわたしたちだけでこそこそと…って思われても仕方ないのかも。 だけど、そこまで口にできない秘密の話をしてたわけじゃない。と改めて気を取り直し、わたしは長いことしまってあったと思しきちょっと上質な作りの客用布団に半身を潜りこませ、やや気まずく顔を逸らしながらもなるべく正直に話そうと適当な言葉を探した。 「わたしがうっかり…。アスハが前に家族のことをいろいろ言ってたのをあの場で思い出しちゃって。陰で何て言ってるか言いつけたみたいになっちゃった、って焦ってたらそれは知ってるから大丈夫だよ。とかいつものことだったよ。ってお母さんとお姉さんがフォローしてくれた。それだけのことだよ、普通のやり取りでしょ?」 「だったら声に出せばいいのに。なんか黙ってもそもそしてる雰囲気だから、こっちもいちいち引っかかるんだよな」 内容は大したことない、というのには納得してくれたのかそれ以上の追及はされなかったが。やっぱりアスハの気持ちは微妙にまだ収まらないようだ。 「いつもあんな感じなんだよな。ふっ、と笑ったり目を合わせたりして、でも無言。苛々して何だよ?って訊いても大したことじゃないよとしか言わないし。別に会話の内容を絶対知りたいってわけでもないんだよ」 どんな過去の出来事を思い出したのか。珍しく目を怒らせて、話しながら次第にヒートアップしてくる。 「たださ、教える気がないんなら完全に隠して伏せてもらいたいんだよな。なんかやり取りしてるなって気配だけ感じさせといて何だ?って訊けば何でもない、って…。じゃあ急にふふっとなったり小さく頷いたり。ちょっとこっちの方を気にしてちらっと目をやったりしないで欲しいんだよ。そしたら俺だってなにも気づかないでいられて、いちいち神経がささくれたり癇に障らないで済むのに」 やっぱりいろいろとこれまでの蓄積で言いたいこともたまってるんだろうな。ってのは間違いなく理解できるから思わず肩をすぼめる。確かに、自分がそっちの立場だったと想像すれば。一度や二度は流すとしても、生まれてからずっとそれならかなり嫌かも。 しかも実家だけじゃなく、集落のどこ行っても大体そんな感じだったんだろうなと思うと、自分がそこに加担してしまったのが申し訳ない。 「ごめんね。同じ場に居合わせてるアスハの気持ちまで、咄嗟に気が回らなくて…」 わたしがぼそぼそと謝ると、彼はやや早口になってそれを打ち消そうとしてきた。顔つきはいつもの無表情のままだが、声に滲んでる感じからいうと。 もしかしたらだけど、これでも少し焦ってるのかもしれない。 「いやましろは悪くないだろ。こんな、初めての土地で慣れてない状況にいきなり放り込まれたらさ。向こうからいきなり脳内へと直に話しかけられたりしたらその対応でいっぱいいっぱいになるのは当たり前だよ。何もかも初体験だし知らないよその家でアウェーだし、そりゃそんなとこまで気が回る方がおかしいと思うよ」 やけに言葉は強いけど別に非難してるわけではないらしい。本人が言う通り、わたしのフォローをしてやらなきゃと思うあまりについ力が入っちゃったってだけだろう。 「それよりはうちの親の方の問題だろ。あんたがまだここに来たばっかりで、自分と同じような能力持ちとのやり取りに慣れてないことわかってるんだから」 なんかぷりぷり怒ってる。ちょっといつもより感情が表に出て見えるのが面白いな、とうっかり脳内で呑気な感想を抱いてしまった。 アスハが普段考えや感情を露わにしない無表情無感動を貫いてるのは、おそらくここで生まれ育った経験から来てるのは間違いないだろうが。 それはそれとして、やっぱり家では外にいるときに較べると油断してつい感情的になることも多くなるのかもしれない。 家族に対して心を閉ざしてるように思えても、見ようによっては甘えが出てる部分もあるんだろうなぁ。と考えたらちょっと微笑ましかった。そのまま口に出したら猛反発されそうだけど。 「うーん。…けど、お母さんやお姉さんの方でも。わたしみたいな中途半端な能力者にはこれまで出会ったことがないだろうから、そこは加減というか扱いに困ってるんじゃないかなぁ」 アスハから見たら自分ちの家族が悪い、と言いたくなるのもわかるけど。客観的にいえばどうにも公平じゃないような気がしてわたしはそう呟いた。 「さっきのやり取りから察するに、ここの能力のある人たち同士のコミュニケーションの取り方ってかなり独特なんだよね。普通に脳内で言葉を発して会話する感じではないみたい。もう、頭の中にある情報を素材のままぱっと一瞬で読み取り合うって感じ。普段そうしてナチュラルに通じ合ってる人たちが努力してこっちに合わせてくれてるんだなと思うと…。あれ、わたしが生まれたとこでは自分以外誰も心が読めないってことは皆さんに説明したっけ?なんか細かい話はあとで、ってなって。結局そのままだっだような…」
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