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ローゼリーンには、意味がわからない。きょとんとしていれば、父は「真剣な話をする」と表情を整え、ローゼリーンを執務室にある応接用のソファーにエスコートしてくれた。
「お父さま、大丈夫ですの? 何処かご体調でも悪いのですか?」
普段は丈夫な父が、弱っている。
驚きも隠せずに、ローゼリーンは恐る恐る父にそう声をかけてみた。父は、ゆるゆると首を横に振るだけだ。
「いや、私はとても元気だ。……悪いのは、心の状態だろうか」
「まぁ。ですが、本日は伯父さまに呼び出されたのでしょう?」
国王とはいえ、父にとっては兄である。そこまで厳しい精神状態になるはずがないのだが……。
と思い、ローゼリーンは頬に手を当てる。父が、膝の上で手を組んだ。
「あぁ、兄上……陛下に、呼び出されていた。そこで、私は一つの打診をされたんだ」
「……打診、でございます?」
「いや、違うな。これは一種の王命だ」
ちょっとだけ、不穏な言葉かもしれない。
リューデル王国の現国王は、権力を振りかざしたりはしない性格だ。そのため、『王命』という言葉など滅多なことでは使わない。
合わせ、それをまさか弟に使うなんて……。
(いいえ、お父さまだからこそ、王命を与えられたのかもしれない)
しかし、そう思いなおした。
血のつながった弟だからこそ。自らの意思を理解して、動いてくれる。そう思い、信頼してくれているのだろう。
……けれど、それでも不可解なこともある。
それこそ、どうして父がこのことをローゼリーンに伝えたのか、ということだ。
(普通ならば、跡継ぎであるお兄さまのほうに先にお話が行くはずだわ。……なのに、私のほうに来ている)
それすなわち。その『王命』とやらば、ローゼリーンに関係のあることなのだろう。瞬時に、それを理解した。
「この間の戦のことは、覚えているだろうか?」
ふと、父が話の流れをぶった切って、別の話を始めた。
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