第1章

8/19
前へ
/23ページ
次へ
 この国で現状最も身分の高い未婚の子女。しかも、王族の血を引いている。  そうなれば、妻に欲しがるのもある意味当然かもしれない。  ローゼリーンは多少夢見がちではあるが、割と現実主義者でもある。なので、特別嫌悪感は抱かない。 「……当然かと思いますが。お父さまは、なにがそんなに不満ですの?」  きょとんとしつつそう問いかけてみる。父がローゼリーンを見つめる目は、やっぱり不満そうだ。 「当たり前だろう。私はローゼには幸せになってほしい。そのためには、財力も権力もある。そういう男と結婚するべきだと思う」  ……まぁ、貴族の考えとしては正解だろう。そして、娘を持つ親としても、正解の考えだと思う。 「だが、あの男はどうだ? 英雄と呼ばれているが、所詮はそれだけ。実家は落ちぶれていると有名な伯爵家。しかも、次男坊。いくら陛下があの男に新しい伯爵位を与えると言っていても、私は納得できない!」  目の前のテーブルをバンっとたたく父。  ローゼリーンは心の中だけでため息をつく。  この父は。普段は冷静で切れ者、周囲からの信頼も厚い、素晴らしい人だ。  が、しかし。娘であるローゼリーンが関わると一変。子供のような人物に変貌してしまう。 「ローゼは私の宝なんだ。いや、私だけではない。むしろ、国の宝だろう」 「……大げさですけど」  そこまで言われると、もはや逆にバカにされている気しかしない。  父にとって、遅く出来た娘のローゼリーンが宝なのは、百歩譲ってわかる。だが、なにも国の宝ではないだろう。 「まぁ、ともかく。私としては、英雄の騎士さま……えぇっと、バーグフリートさまに嫁ぐことは、問題ありませんわ」  新聞で読んだ名前を、思い出して口にする。父は、眉間にしわを寄せていた。 「だが、ローゼ、私は……」 「お父さまの一存で反対など無謀でしょう。それに、伯父さまのご命令ならば、なおさらです」  父は公爵であり王弟だが、現在の国王には敵わない。それくらい、彼だってわかっているのだろう。気まずそうに、視線を逸らす。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

239人が本棚に入れています
本棚に追加