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が、しかし。ローゼリーンは公爵家の娘である。感じている気持ちをそのまま顔に出したりなど、決してしない。もちろん、態度にも出さない。ただ粛々と食事を進めるだけだ。
唯一、テレサだけはローゼリーンの変化に気が付いているようだが。
そう思いつつ、ローゼリーンはバーグフリートを見つめる。
もしかしたら、彼は敏い人で、ローゼリーンの心に秘めた感情を察してくれるかも……などと、甘いことを考えてみる。
……けれど、そんなことはなかった。彼はローゼリーンに見つめられると、そっと視線を逸らす。挙句、ローゼリーンに見つめられ続けたためか、ナイフを落としていた。
「……まぁ」
さすがにそれは予想外すぎて、ローゼリーンは声を上げてしまう。
慌てて侍女の一人がナイフを拾い、新しいナイフをバーグフリートに手渡す。彼は「悪いな」と小さく告げていた。
「……大丈夫、ですか?」
なんだか、彼の落ち着きがないような気がしてしまう。
手元だって、先ほどよりもおぼつかなくなっている。
……まさかだが、無理をしているのではないか。
「もしも、なにかありましたら……」
ローゼリーンが気遣った言葉をかけようとすれば、彼は「なんでもない」と即座に返してきた。
……まだ、半分くらいしか言っていないのに。
「少し、疲れているだけ、ですから。……気にしないでください」
彼が早口でそう紡ぐ。
それならばまぁ、構わないか……と思ったのもつかの間、ローゼリーンには気にかかることがあった。
「あの、私に敬語は必要ありませんよ。だって、あなたは私の夫でしょうに」
そこだけは修正する必要があるような気がして、ローゼリーンは口にする。バーグフリートは、一瞬だけぽかんとしていた。
「今までの私は、クラウヴェル公爵家の娘でした。でも、今日からはあなたの妻ですよ」
本当、まだ全然実感がわかないけれど……と心の中だけで付け足して、バーグフリートを見つめる。
彼が少し困っている。視線を彷徨わせる。グラスを口に運んで、ワインを飲み干してしまった。
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