第1章

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「そ、その、だな」 「……はい」  ちょっと声が上ずっている。でも、それを指摘する気もなくて、ローゼリーンは頷いた。  バーグフリートが、グラスを置いてはもってを繰り返す。……中身のワインは、先ほど飲み干したと教えたほうがいいのだろうか? 「俺は……その、ローゼリーンさまのこと……を」 「さまは不要です」  何処の夫が、妻をさま付けで呼ぶのだろうか。  婚約者時代ならばまだしも、婚姻しているというのに。 「ろ、ローゼ、リーンのこと……を」  強く言ったためか、彼が言葉を直した。ローゼリーンは、それを聞いて大きく頷く。 「その、だな。あぁ、そうだ。俺は、別にローゼリーンのことなんて……好きには、ならない」 「……はい?」  一瞬彼が紡いだ言葉の意味がわからなかった。その所為でぽかんとしていれば、バーグフリートはごほんと大きく咳ばらいをした。  その後、勢いよく立ち上がる。 「俺はローゼリーンのことなんて、好きじゃない。今後、好きにもならない」 「……はぁ」  そんなこと、ローゼリーンに言われても困ってしまう。だって、政略結婚にはそういう個人の感情などいらないのだから。 「だから、その。俺と、深く関わることはやめてくれ。……同居している空気くらいだと、思ってくれ」  同居している空気とは、どういうことなのだろうか?  ローゼリーンがそう思っている間に、彼はすたすたと食堂を出て行ってしまう。  彼の席にある食事はすでに平らげられている。……きちんと残さず食べたらしい。 「……はて」  好きじゃない、今後好きになることもない……。  バーグフリートに告げられた言葉を、頭の中で復唱する。しばらくして、ようやくローゼリーンは意味を呑み込めた。
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