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「そ、その、だな」
「……はい」
ちょっと声が上ずっている。でも、それを指摘する気もなくて、ローゼリーンは頷いた。
バーグフリートが、グラスを置いてはもってを繰り返す。……中身のワインは、先ほど飲み干したと教えたほうがいいのだろうか?
「俺は……その、ローゼリーンさまのこと……を」
「さまは不要です」
何処の夫が、妻をさま付けで呼ぶのだろうか。
婚約者時代ならばまだしも、婚姻しているというのに。
「ろ、ローゼ、リーンのこと……を」
強く言ったためか、彼が言葉を直した。ローゼリーンは、それを聞いて大きく頷く。
「その、だな。あぁ、そうだ。俺は、別にローゼリーンのことなんて……好きには、ならない」
「……はい?」
一瞬彼が紡いだ言葉の意味がわからなかった。その所為でぽかんとしていれば、バーグフリートはごほんと大きく咳ばらいをした。
その後、勢いよく立ち上がる。
「俺はローゼリーンのことなんて、好きじゃない。今後、好きにもならない」
「……はぁ」
そんなこと、ローゼリーンに言われても困ってしまう。だって、政略結婚にはそういう個人の感情などいらないのだから。
「だから、その。俺と、深く関わることはやめてくれ。……同居している空気くらいだと、思ってくれ」
同居している空気とは、どういうことなのだろうか?
ローゼリーンがそう思っている間に、彼はすたすたと食堂を出て行ってしまう。
彼の席にある食事はすでに平らげられている。……きちんと残さず食べたらしい。
「……はて」
好きじゃない、今後好きになることもない……。
バーグフリートに告げられた言葉を、頭の中で復唱する。しばらくして、ようやくローゼリーンは意味を呑み込めた。
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