247人が本棚に入れています
本棚に追加
「つまりは、好きにしていいということかしら?」
そもそも、同居している空気など気にしなくてもいい存在だ。
……まぁ、彼ほど図体がデカかったら、まったく気にしないというのは無理そうだが。
「ろ、ろ、ローゼリーンさま……!」
さすがにバーグフリートの態度が心配になったのか、テレサがローゼリーンのほうに近づいてくる。
「あんなお言葉、気にされなくて結構ですわ。大体、ローゼリーンさまは姫さまですのに……」
王族の血を引いている、公爵家のお姫さま。それがローゼリーンだ。
テレサはそう言いたいのだろう。そのうえで、彼の態度が信じられないのだ。
「ローゼリーンさま。私は、抗議に行ってこようと思いますわ。……いくら夫となられても、あれはあんまりです」
実家から連れて来た別の侍女が、息を荒くしてそう言ってくる。なので、ローゼリーンはゆるゆると首を横に振った。
「いえ、その必要はないわ」
端的にそう言って、カトラリーをテーブルの上に戻す。グラスを取って、水を口に運んで。のどを潤したら、彼女たちを見つめた。
「こうなることは、まぁ、よくあることでしょうし」
貴族の夫婦関係など、冷めきっていてもおかしくはない。
「あなたたちが抗議をすることで、この国の英雄の機嫌を損ねるのは、やめたほうがいいわね」
ローゼリーンは現実的な考えの持ち主でもある。自分の幸せと、国の利益。どちらを重要視するべきかは、理解しているつもりだ。
「だから、このことはくれぐれもお父さまやお兄さま、伯父さまのお耳には入れないで頂戴。極秘案件よ」
目の前で指でバツを作って、ローゼリーンがそう告げる。二人は、納得していない様子だったが頷いてくれた。
「と、いうわけだから。……どうやら、私は愛されない結婚生活というものを、送ることになったみたいだわ」
そして、ぽつりとそう呟いた。その声は、何処か弾んでいる……ようにも、感じられた。
最初のコメントを投稿しよう!