第1章

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 ◇  そんな記事が載った新聞を眺めつつ、ローゼリーンは専属の侍女テレサに淹れてもらった紅茶を口に運ぶ。  優雅な所作でお茶を飲むその姿は、まさに『姫君』に相応しい。……とはいっても、ローゼリーンは『姫』ではないのだが。 (平和条約も無事締結されて、国内も少しずつ落ち着くといいわね)  そう思いつつ、ローゼリーンは新聞を閉じる。そのまま侍女に新聞を手渡し、ローゼリーンは目の前のテーブルに頬杖を突いた。 (今回はこの結果で終わったからよいものを、伯父さまも少しは警戒心を持たなくてはならないわ)  なんて思ったものの、クランベリーのパウンドケーキを口に入れると、そんなことどうでもよくなる。  乾燥したクランベリーがたくさん練り込まれたパウンドケーキは、ローゼリーンの大好物だ。  合わせ、今飲んでいる紅茶にとても合う。 「……あぁ、幸せだわ」  自然とぽつりと言葉が零れた。  庭園のガーデンスペースで、のんびりとお茶をする。温かな陽の光に包まれて、小鳥のさえずりを聞いて。美味しい紅茶とパウンドケーキ。まさに、淑女の理想の休憩時間。  ほうっと息を吐けば、遠くから侍女がやってくる。彼女は、ローゼリーンの専属ではない。とはいっても、よく知った顔なのだが。 「あら、どうなさったの?」  きょとんとしつつそう声をかければ、彼女は深々と頭を下げた。 「先ほど、王城に出向かれている旦那さまから遣いが来まして」 「……へぇ」 「今から旦那さまは邸宅にお戻りになるそうでございます。また、戻り次第お嬢さまに執務室に来ていただきたい、と」 「……あら」  珍しいこともあるものだと、ローゼリーンは思う。
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