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私室で簡易のドレスに着替え、ローゼリーンが髪の毛を整え終えたとき。タイミングばっちりに、先ほどの侍女が父の帰宅を知らせに来てくれた。
彼女にすぐに向かう意思を伝え、ローゼリーンも私室を出て行く。
少し歩けば、父の執務室の前にたどり着く。一度だけ咳ばらいをして、扉を三回ノック。声が聞こえてきて、許可が出たら扉を開けた。
すると、暑苦しいばかりの抱擁がローゼリーンを襲う。
「あぁ、ローゼ。キミはいつも可愛いな」
「知っております」
父はいつもいつも、ローゼリーンに「可愛い」と伝えてくる。朝昼晩だけならばまだしも、一日五回以上言われるのが常だ。
だからこそ、ローゼリーンは自らの容姿がとても整っていることを自覚している。むしろ、整っていなければ『宝石姫』なんてあだ名で呼ばれることもない。
「今日の装いもとても愛らしい。まるで、可憐な妖精のようだ!」
「えぇ、そうでしょう」
ニコニコと笑って父の言葉に相槌を打つ。いつもならば父もここぞとばかりに褒め言葉を連呼してくるのだが……今日は、違った。
彼は悲しそうに眉を下げて、ローゼリーンを見つめていた。
「可愛いローゼ。私に、もっとその愛らしいお顔を見せてくれ」
まるで縋るような声に、ローゼリーンはぽかんとしてしまう。
でも、断る意味もないので父を見つめる。……父は、しばらくしてその場に崩れ落ちた。
「お、お父さま!?」
さすがにこれはローゼリーンとて予測していないことだった。
その所為で大声が出てしまう。父は、よろよろと立ち上がる。
「どうして、どうしてなんだ。……どうして、ローゼが……」
額を押さえつつ、父はこの世の終わりのような声音で、そうブツブツと呟いていく。
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