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霊安室と書かれた部屋へと通された。線香の匂いにげほげほと噎せながら、白い布に覆われている形を見た母は、途端に力なく崩れ落ち、女性警官に支えながら、廊下のソファーに座らされた。
『神崎郁さんの確認をお願いします。顔だけはきれいに見れますので、大丈夫ですか?』
年配の男性警官の言い方で、私は顔より下を見たけれど、布で隠され損傷を見ることはできなかった。
『私は、大丈夫です』
霊安室に響く、同じような話し方の声。グッと唇を引き締めてから一歩前進して近づいていく。
白い布がとられた郁の顔には泥がついていた。白い肌に傷があるけれど比較的見れる顔だった。
『郁です。郁で間違いありません』
同じ顔の私が横たわっている気がして寒気がした。そして、刑事が慣れた口調で死亡届にサインをと差し出された。
“確認者 神崎伊都”
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