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「トウ、見てごらん。なんて美しいんだろう」
小さな川にかかる橋を渡っていたシュウは立ち止まり、左手側に広がる草原に目をやった。そこには、白い小さな花をひとつの枝にいくつも咲かせた植物が群生していた。
アイロミ草と呼ばれるその植物の根は痛みを和らげる薬として、白い花は胃腸の調子を整える薬として使われている。
「アイロミ草を摘んでいこう。雨上がりの朝に摘んだアイロミ草はとても上質なんだ」
シュウとトウは橋を渡ると、所々にぬかるみの残る草原に入っていった。トウは、乾いている石の上に鞄を置くと、アイロミ草の周りを前足で次々と掘り始めた。そうして抜きやすくなった草を、根を切らないようにゆっくりとシュウが引っ張り出していくのだった。息のあった丁寧な作業で、アイロミ草は花も根も傷つくことなく抜かれていった。
アイロミ草の束が両手に抱えるほどになり、もうこのくらいで良いかとシュウが腰をあげた時だった。
「よう、朝から花摘とは、相変わらず乙女な奴だな」
その声にシュウが振り返ると、橋の真ん中で笑顔をこちらに向けている男がいた。
「トシ!帰っていたのか」
「ああ、昨日着いたんだ」
シュウは摘んだ草を抱え、男のいる橋の方へと急いだ。
「久しぶりだ。会えて嬉しいよ、トシ。家にはもう帰ったかい?」
「もちろんさ。村についてからすぐに」
「それは良かった。母上は君のことをいつも案じておられるだろうから」
「おいおい、言っとくがな、シュウ。お母上様がいつも心配しておられるのはお前のことだぞ」
と、トシは花を抱えて草原から出てきたシュウの身体に抱きつくと、背中をポンと叩いた。
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