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シュウはすぐにカインを抱き抱えた。
「おぉ…おぉ…シュウ様」
と、カインは震える手をシュウの顔に近づけた。
「一体、どうなされたのですか」
「毒矢にやられたのです。クスラ国の毒矢に」
「モサビの毒…」
クスラ国が毒矢に使っているのは、軍の紋章にもなっているモサビの猛毒だ。体内に入った毒は徐々に身体中の筋肉を麻痺させ、最後には命を奪う。しかしモサビは数が少なく、捕獲するのも難しいため、その毒は大変貴重で、国王だけが所持しているといううわさだった。
「もう最期が近い。ココラルも私に向かって吠えている」
カインの声はかすれ、息は荒かった。
「なぜクスラ国の兵士の姿になったあなたがクスラ国の矢に?しかも毒矢とは…?」
「シュウ様…影が…影が迫っております」
「影?」
「そうです。影の住人が取りついたのです、ナバルに。クスラ国王ナバルはこの世すべてを己のものに…時間がない、シュウ様、聖剣を…聖剣を…」
と、シュウの胸元をつかもうとしたカインの手は力を失い、だらりと下に落ちた。
「カイン殿」
シュウの呼び掛けに答える声は帰ってこなかった。
トウの遠吠えが静けさのなかに響き渡った。
カインはシュウの腕の中で息を引き取っていた。
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