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「シュウ様の剣さばきは美しい」
7年前のある日、カインはそう言って、額の汗を袖で拭った。二人はもう何時間も剣術の稽古をしていた。
「そして、恐ろしいほどに殺気がない」
「カイン殿に殺気を剥き出しにしてどうするんです?」
と、シュウは笑った。
「 楽しいのです。カイン殿と剣術の稽古をするのが。殺気など出てくる訳がないではないですか」
「一度、私に本気で向かってきていただけませんか」
と、カインは再び木刀をシュウに向かって構えた。
「いつも本気ですよ」
「いえ、そうではなく、例えば私があなたの愛する人を殺した敵だとして、その敵を倒すつもりで向かってきていただけませんか」
「やめてくださいよ、僕が争い事が嫌いなことは知っているでしょう?僕には無理です。僕の中に殺気なんてものはないんですよ」
「そう言われると思っていました」
と、カインは笑いながら木刀を下ろした。
「しかし、あなたの中に、もしそんな感情が湧き起こったならば、一体あなたはどこまで強くなるのだろうかと思うと恐ろしい」
シュウは、自分の腕の中で動かなくなったカインの身体をそっと地面に下ろすと、ゆっくりと近づいてきたトウを抱き締めた。
こんなに突然で、理解できない別れになるなど想像もしていなかった。目を閉じれば、あの日のカインの笑顔が浮かぶ。
カインはフオグ国軍の中でも一二を争う剣豪だった。忠誠心が強く、常に国や国王のために動く人だった。冷静な判断力、的確な行動力、どれをとっても右に出る者はいなかった。
「何故…何があった?」
シュウは握りしめたこぶしを自分の額にドンドンと打ちつけた。涙があふれて止まらなかった。
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