聖剣 ②

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聖剣 ②

 ユアンが、聖剣の使い手として突如現れ、ソルア(影を操る者)に乗っ取られていたフオグ国を奪い返したのは、今から30年前のことだ。  ソルアとの戦いの犠牲は大きかった。現在の国王ルシフの実父でもある前国王やルシフの妃をはじめ、数百人の家来がたった一人のソルアに殺されたのだ。  その数百人の命を悼み、フオグ国では毎年、ココラルがやってくる季節に、盛大な式典ベネガを行ってきた。祈りを捧げ、今ある平和と繁栄が末永く続くようにと願う式典だ。  しかし今年のベネガは特別だ。国王ルシフが退位し、皇太子のティムが新国王に即位する式典も同時に執り行われることになっているのだ。  特別なベネガを明後日に控え、城の者は皆、その準備に追われていた。式典が執り行われる庭園には、ベネガのために庭師が愛情を込めて育てた色とりどりの花々が一面に咲き誇っており、その間を人々が忙しそうに行き来していた。 「今年も美しい庭となったか」  国王ルシフは支えられながら少し身を起こして、外を眺めていた。ルシフからは青空しか見ることはできなかった。ベッドの足元に腰をかけているユアンは頷いて言った。 「とても美しいです」  そんなユアンの横顔に目をやると、ルシフはため息をついた。 「君は、歳をとらないのか?何年経ってもあの日のままのようだ」 「そんなことはありません」  ユアンは52歳、国王ルシフは58歳だが、ユアンは実年齢より20歳ほどは若く見え、ルシフは20歳ほど上に見えた。 「しかし、確かに皆にそう言われます。サラからも、私には皺やシミがいっぱいできるのにあなたはどうしてそんななのと怒られます」 と、ユアンは笑いながら襟足を掻いた。 「僕の見た目の若さは、この聖剣の呪いだと噂する者もいます。聖剣を手放せば、その瞬間に元に戻るのだ、つまり歳をとるのだと」 と、ユアンは腰にさした聖剣の鞘を握った。 「呪いがかかったとするならば、それは私の方だろう」  ルシフは医師に支えられながら再びベッドに横になった。 「数多くの者の命を救えなかったのだから。あるいは殺したソルアからの呪いか…」
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