聖剣 ②

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 ルシフは、数年前から病におかされていた。その病は、ルシフから徐々に身体の自由を奪った。今、ルシフ自身の意思で動かせるのは、首から上だけだった。 「もし呪いだとするならば、その相手はルシフ様ではなく僕の方でなければなりません。ソルアを葬ったのは僕なのですから」 「何を馬鹿なことを。君は十分苦しんできた。その聖剣と運命を共にすることがいかに君の命をすり減らすことになっているか、私は理解しているつもりだ」  ユアンは襟足を左手で掻きながら苦笑いを浮かべた。それは困った時のユアンの癖だ。 「あぁ、アオ様の声が聞こえます」 と、ユアンは立ち上がり、部屋から続くバルコニーへ出ると、庭園で遊んでいるティムの息子のアオに向かって大きく手を振った。アオの母親のカンナがそれに気付き、アオを抱きかかえて二人で一緒にユアンに向かって手を振り返した。 「かわいい盛りですね。小さな頃のティム様によく似ていらっしゃる」  ユアンは顔をあげると、遠くの山々や城の外壁の向こう側に連なる家々の屋根を眺めた。庭園では、アオが嬉しそうにまた花畑の中を走り回っている。 「この美しい国を、人々の日常を、子供たちの未来を、なんとしても守りたい。そう心に誓ったあの日、聖剣は僕の前に現れました。川に沈んでいた聖剣を拾い上げた時、これが僕の願いを叶えようとしてくれている、そう思いました。ソルアを倒し、こうして歳をとった今でも、その願いは変わりません。この聖剣は希望であり、師であり、同志です。たとえ僕が」 と言いかけて、ユアンは口を閉じ、次に出すべき言葉を探すかのように腰に手を当ててうつむいた。 「ユアンよ、この世の中、誰もが年老いていく。英雄であろうが、国王であろうが、それは皆にじわじわと忍び寄って来る。怖くもあり、虚しくもあり、残酷であったりもする。息子を見ると、その若さに嫉妬することさえある。自分に今、若者のような生命力があれば、若返ることができたならば、もっと成し得たことがたくさんあったのではないかと。もちろん、それは叶わない。しかし、それで良いのだ。年老い果てていくことは、絶望ではない。光は常に先にあって、我々にはそれがはっきり見えている。我々がすべきこともはっきりしているのだ」  ルシフの言葉に、ユアンは口元を緩め頷いた。
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