聖剣 ③

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「今年こそはベネガに来るようにと、シュウに言っておきます」 「さっきは、シュウに会いに行っていたの?」 「はい。ずいぶん頼もしくなっていましたよ」 「そう…評判は耳にするのよ。リンビル先生が鍛えてくださったおかげね」 と、サラはお菓子の入った小さなかわいい袋の数を数え始めた。ベネガでは子ども達にお菓子を配る習慣があるのだ。 「会いたくないのですか?」 サラは袋を数えていた手を止めて、素早く振り返った。 「会いたいに決まっているでしょう?もう、7年になるのよ。こんなに近くにいるのに、まるで遠い国にでも旅立ってしまったみたい」 「シュウが来ないのであれば、母上が会いに行かれたらよいのでは?」 「シュウも私も頑固なの。あの子がまだ会わないつもりなら、私も会わないつもり。我慢くらべ。良くないわね」 と、サラがため息をついた。 「もう少し素直になれたら、楽なのにね」 「それは、シュウのことですか?母上のことですか?」 「シュウのことよ。あの子が帰ってこないのは、素直になれないから。悩み事を一人で抱え込んでいるから。何年も何年も…全部吐き出してしまえばいいのに。気を遣って、誰も傷つけたくなくてそれができない」 「母上は、シュウが帰ってこない理由をご存知なんですか?」 「いいえ、知らないわ。でも、わかる。小さい頃からそうだった。この家を出て行った日のことを覚えてる?医者になりたいと言っていたのは本心だと思うけれど、あの時の顔は何かを隠している顔だった」 「隠すって、何を?」 「それは、わからない。でも、この家を出る決心につながる事だから。簡単なことではないのでしょうね」 「母上に隠し事はできませんね」 「そうよ。あなたも隠していることを白状してしまいなさい」 「えっ?」 と、戸惑ったトシを見て、サラはウフフと笑った。 「冗談よ。私にだって、隠し事はあるもの」 「母上にですか?」 「そうよ。すっごい秘密」 と、サラは眉間に皺を寄せてみせてからにこりと笑った。  サラは、この家の太陽のような人だとトシは思っている。明るく光っていて、暖かい。いつも優しく見守ってくれている。自分はサラにどれだけ恩を返せたのだろうか。リンビルの言葉が耳の奥で聞こえてくる…見えているうちにやりたいことも、まだまだたくさんあるだろう… 「そろそろ、行商はやめようと思っています」  思ってもいなかったことが口から出て、しまったという感情が顔に出そうになるのをトシは必死に抑えた。サラの表情がより一層ぱっと明るく輝いたのがわかったからだ。 「本当に?嬉しいわ。実はね、あなたに話そうと思っていたことがあって」  いえまだ、決定したわけではないのですと、トシは慌てて言おうとしたが、ちょうどそこへ城からの使者がサラを呼びに来て、言うことができなかった。  また後でゆっくり話しましょうね、とサラが出ていった部屋でひとり、トシはため息をついた。
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