聖剣 ⑥

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 夕焼けがとても綺麗な空を見上げると、数頭のココラルがヨオ都の方角へ飛んでいくのが見えた。 「ココラルだ」  ロニは嬉しそうに言った。ココラルがやって来る春の季節が、ロニは一番好きだ。明後日のベネガも、とても楽しみだった。シュウ先生に会えるかもしれない。バイルの実を先生にあげたいなぁ。  診療所に行くまでの間に、立派なバイルの実を見つけていたロニは、ルイの言葉が頭をよぎりつつも、やはり実を取ろうと考えていた。僕はもう子供じゃないよ。そりゃあ、へまばかりして、親方には怒鳴られてばっかりだけどさ。木登りと高い所は得意なんだから…  目的のバイルの木に着くと、ロニは靴を脱いで裸足になり、すいすいと登っていった。実の近くまで行くと、実は思ったより立派な大きさで、美味しそうに熟していた。鳥についばまれた跡もなく、とても綺麗だ。ロニはわくわくしていた。こんな立派なバイルの実なら、シュウ先生はきっと喜んでくれる。  ロニは腕をのばして、自分の頭ほどの大きさの実を抱え、下に引っ張った。しかし、バイルの実はまだしっかりと枝についていて、なかなか離れようとしなかった。ロニはあきらめずに何度も実を下に引っ張っていた。その時だった。  上空に三頭のココラルがやってきた。ココラルは、ロニの頭上をくるくると回り始めたかと思うと、急に激しく吠え出した。   ココラルが頭上で回れば命の誕生を意味し、激しくほえたなら命の終わりを意味する。  ロニはパニックになった。自分の頭の上でココラルがくるくる回りながら激しく吠えているのだ。僕が死んじゃうってこと?と、ロニが思った時、抱えていたバイルの実の枝が突然折れ、ロニはバランスを失った。そして次の瞬間にはロニは木から真っ逆さまに落ちていった。  どんっという鈍い音がしたが、ロニは全く痛くなかった。柔らかくて暖かいものが落ちていく自分を包み込み、そのまま守られるように落ちたからだ。  ぎゅっと瞑っていた目を恐る恐る開けてみると、見ず知らずの青年がロニの下にいるのがわかった。背中を地面につける形でロニを抱き、落下の衝撃から守ってくれたのだ。 「あ、あの…大丈夫ですか?」  ロニは急いでその青年の上からおりた。青年が苦しそうに顔を歪めていたからだ。青年の頭からは血も流れていた。 「あ、あの…どうしよう。診療所から先生連れてきます」 と、走り出そうとするロニの足首を、青年がぎゅっと掴んだ。ロニは驚いて振り返った。青年は身体を起こし、ロニに向かって少し笑ってみせた。 「僕は大丈夫。君は怪我はないか?」 「はい、大丈夫です」 「よかった」 「あの…頭から血が」 「ん?あぁ、かすり傷だ。たいしたことない。それより聞きたいことがあるんだが、ヨオ都へ行くには、この道で合っているか?」 「あ、はい。この道をこのまま北へ」  と、北の方角を指差してから青年の方に振り返ったロニは、青年の頭から出ていたはずの血がもう見えなくなっており、傷もなくなっていることに気付いた。 「ありがとう。バイルの実には影のいたずらっ子が潜んでいて気まぐれだから、次からは気をつけるんだよ」  青年は、ロニが指差した方角へ歩き始めた。しかし、頭上のココラルがくるくる回りながら吠え続けていたので、それから逃げるように走り出した。青年の足はとても速く、あっという間に見えなくなり、ココラルも落ち着きを取り戻した様子で、北の方角へとゆっくり羽ばたいて行った。 ロニはバイルの実を抱えたまま、呆然と青年が消えた方角を眺めていた。
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