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聖剣 ⑦
「起きてください、トシ様」
その声にうっすらと瞼を開けたトシは、辺りが暗くなっているのに驚き、飛び起きた。目の前では、衛兵が心配そうな顔をしていた。
「大丈夫ですか?ユアン様がお戻りになられて、トシ様を探しておられます」
「ああ、そうだった。父上は今どこに?」
「執務室です。シュウ様もご一緒に戻られたので、城中大騒ぎになっています」
「シュウが?」
トシは急いで執務室へと向かおうとしたが、立ち止まって衛兵の方に振り返った。
「俺は、ずっとこの部屋で眠っていたか?」
「申し訳ありません、それはわかりません。ユアン様がトシ様を探すようにとおっしゃられたので、皆で探しておりましたところ、ここで眠っておられるのを見つけた次第です。ずっとこの部屋にいらっしゃったかはわかりません」
「そうか、申し訳なかったな。ありがとう」
執務室は、城の三階にある大広間の横に位置している。トシは階段を駆け上がりながら、さっき見た夢のことが頭から離れなかった。
夢だったのだろうか。夢ではなかったとしたら?いや、ここはヨオ都。この短時間でトルク村まで往復したとは考えられない。やはり、夢だったのだろう。ならば、あの夢の意味は?夢に意味などないのかもしれないが、自分の潜在意識があの夢を見させたとするならば、その潜在意識は何を俺に訴えかけているのだろう。
執務室の扉の前に来た時、トシはもう一つ重要なことを思い出して、取っ手に手をかけるのをためらった。そうだ、すっかり後回しにしていた件があったのだった…まずいな、みんな揃ってしまった…
すると、扉が内側から開いてハクトが出てきた。
「なぜ入らん?」
「いや、入ろうとしていたところさ」
トシは扉の隙間から執務室の中にいるシュウを見た。ぼんやりと見えるだけだったが、それで充分だった。目が悪くなり始めたころから、トシは人の気持ちが、漠然としたものではあるのだが、その周りの空気で読み取れるようになっていた。目の代わりに他の感覚が研ぎ澄まされてきているのだろうとリンビルには言われた。
今のシュウの周りにあるのは、負の感情だった。トシは、嫌な予感しかしなかった。
「申し訳ありません、父上。遅くなりました」
「ずっと探していたんだぞ。どこへ行っていた?」
「それが……」
ユアンはトシに近づくと、周りに聞こえないように小声で言った。
「カインが死んだのだ」
「は?」
「カインがクスラ国の毒矢にやられて、命を落としたのだ」
「まさか、そんな」
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