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トシがシュウに目を向けると、シュウは黙って頷いた。
「一体どこで?」
「トルク村で倒れているのをシュウが見つけたのだ」
「待ってください。モサビの毒は、撃たれてから一時間ほどで全身に毒がまわり命を落とします。トルク村で倒れていたということは、フオグ国内で矢を撃たれたことになります。まだ国内に、矢を放った人物が潜伏しているかもしれません」
「わかっている。すでに、兵を四方に派遣して、怪しい者がいないか探している。カインは、影の住人がクスラ国王ナバルに取りついたと言い残した。何か心当たりはあるか?半年前、お前がクスラ国に潜っている間に、何か聞いていなかったか?」
トシは何も答えることができずにいた。シュウが驚いた表情でトシを見ていたが、その視線に合わせる顔がなく、トシはただ俯いた。
「どうした、何か心当たりがあるのか?」
「いえ…」
シュウがトシに近づき、「トシ」と呼びかけたが、トシは顔を上げようとはしなかった。
「また、嘘をついたね」
「どうした、シュウ」
と、ユアンが言った。
「僕には行商だと嘘をついて、君は密偵をしていたのか?」
トシは何も答えられなかった。
「それが、君の目にどれだけ負担になるのか、わかっているだろう?君が行商に行くというのも僕は反対だったんだ。でも君が諸国を周って見たことのない世界を見たいと、見えているうちに色々見ておきたいと言ったから、僕は…。でも、密偵となると話が違う。心を平穏に保つことが、一番君の目の病の悪化を防ぐとリンビル先生に言われただろう?密偵をしていて、心が平穏に保たれるとは思えないよ」
「目の病とは何の話だ」
と、ユアンが言ったので、トシはますますうな垂れた。ハクトが「呆れた」とため息をついた。
「どうやら、こちらにも嘘をついていた、ということだな、トシ」
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