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今、横で歩いているシュウは穏やかで凛としていて、皆から信頼されている医者だ。この道がシュウにとって正しいものだったのだと自信をもって言える。
しかしトシの心には、何かもやもやしたものがずっと離れないでいる。
幼い頃からシュウともハクトとも兄弟として過ごしてきた。剣術の稽古などもずっと一緒だった。だから知っているのだ、シュウは確かに誰よりも強かったことを。シュウがハクトと試合をするといつもシュウが惜敗していたが、そこには、ほんの少しの嘘が混じっていたことを。誰も気づかない、しかしトシにはそれがわかった。いや、おそらく父も兄も気づいていたに違いなかった。だからあの時、そして7年を過ぎた今でさえ、ハクトはシュウを許していないのかも知れない。
「ねえ、トシ、聞いてる?」
シュウの声で、トシはビクッと顔を動かした。
「わるいわるい、何だって?」
「ルイちゃんが、診療所を手伝ってくれているんだ」
「ルイって、あの乱暴者のか?」
「そんな言い方をするのは君だけだな」
とシュウは笑った。
「君はずいぶんルイちゃんに助けられてたじゃないか」
「子供の頃の話だ。俺は平気なのに、ルイが勝手に俺がいじめられてると思って喧嘩の相手を追っ払っていただけだ」
「ずいぶん会ってなかっただろう?きっと驚くよ」
「どうして?」
「診療所に行けば分かるよ」
と、シュウは楽しそうに笑った。
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