再会

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 診療所は、トルク村のちょうど真ん中辺りに位置している。村のどこで病人が出てもすぐに駆けつけることができるように、との配慮だ。  診療所のすぐ裏手には清らかな小川が流れていて、その冷たくて不純物のない水は、薬を作るのにも熱を下げるのにも、包帯を洗うのにも重宝していた。  今も診療所で、ルイが沢山の洗濯物を抱えて川に向かおうとしていた。フオグ国一の名医の元には、トルク村だけではなく、フオグ国内、国外からも患者が来ることも度々で、そんな遠方からくる患者が寝泊まりできるような部屋を診療所内に設けていた。ルイが今抱えているのも、今朝まで滞在していた患者が使用していた寝具や包帯だ。 「手伝うよ」 と、言うシュウに、 「いいえ、大丈夫です」 と、笑顔で答えたルイは、若く美しい女性だった。子供の頃、日焼けした素肌をさらけ出しながら裸足で野原を駆け回っていたやんちゃな女の子の面影は目元に残っているだけで、そのあまりの変わりように、トシは自分がぽかんと口を開けたままもう何分も時間が過ぎていることに全く気づいていないほどだった。 「いや、ルイがいてくれて本当に助かった。わし一人ではどうにもならん」 と、リンビルがトシの前に腰を下ろしながら言った。トシはまだ口を開けたまま、川へと向かうルイの後ろ姿を見送っている。 「本当にそうですね。おかげで僕もキリちゃんの治療に専念できました」 リンビルは頷くと、目の前の放心状態の男に 「どれ、顎でも外れたのか」 と、言ってホッホッと笑った。 「え?何です?」  はっと我に帰ったトシを見て、シュウはこらえきれずに吹き出した。 「おぬし、分かりやすい男じゃの」 「え?」  「なんでもないわい。わしがここに座っておぬしの目を診ようとしているのに、おぬしは一体どこに目をやっとるんじゃという話よ」
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