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「あ、申し訳ありません。ぼんやりしておりました」
リンビルはまたホッホッと笑いながら、トシの目を診察し始めた。少し離れた所で、シュウはアイロミ草の花と根とを分ける作業をしながら、その様子をうかがっている。
「痛みはどうじゃ?」
「いえ、ありません」
「見え方はどうじゃ、視界が狭くなったように感じたりすることは?」
「三年前から変わっていないです」
ふうむとリンビルはため息をつきながら、拡大鏡を机に置いた。
「どうですか、トシの目は」
と、シュウが心配そうに尋ねた。
「そうじゃな、まあ進行はしていないようじゃから、今までの薬で良かろう」
「そうですか、良かった」
と、シュウが言った時、診療所の戸をドンドンと叩く音がした。シュウが戸を開けると、村で大工の見習いをしているロニが、青い顔で立っていた。
「先生、親方が屋根から落ちて、どこか骨を折ったみたいで動けなくなってしまったんだ」
と、ロニは息を切らせながら言うと、目にいっぱい涙をためた。
「僕のせいなんだ。僕が不甲斐ないばかりに…」
「僕が行く。ロニ、大丈夫だよ」
と、シュウは急いで必要になりそうな薬や包帯を鞄に詰め込むと、
「行ってきます」
と言って、あっという間にロニと共に診療所を飛び出していった。
「こうしちゃいられないや。俺も行く」
と立ち上がったトシの両肩を、リンビルがぐいっと椅子に押し戻した。
「親方のところには、ロニだけじゃなく他にも弟子が何人かおるから人手は足りるじゃろう。おぬしにはまだ診察が残っておる」
「でもさっきは、今までの薬で大丈夫だと」
「そんなわけなかろう。本当はどれほど痛みがあるのじゃ?」
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