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トシはとたんに表情をこわばらせ、まっすぐな瞳を向けるリンビルから目をそらした。
「この病はとても珍しいものじゃ。痛みと共に徐々に視力が失われていく。なぜそうなるのか、どうやったら進行を食い止めることができるのか、わしにもわからん。ただ、この患者を診るのはおぬしで二人目じゃから、目の状態を見れば今がどの段階なのかくらいはわしにはわかる」
「なら、今の俺の段階は?」
「右目はずいぶん見えにくくなっている。遠いところだけでなく近くもぼんやりと霧がかかっているようにしか見えない。たよりの左目は何とか見えてはいるものの、最近特に痛みがひどい。ひどすぎて夜眠れないこともある。そんなところかな?」
トシは頭をかきながら、口元に笑みを浮かべた。
「さすがリンビル先生だ。嘘は通用しないってことですね。全くその通りです」
「お前のことじゃ。シュウに心配をかけたくないんじゃろうが、もう隠せないほどにお前の目は悪くなってきている。強い痛み止めの薬を作ってやるが、それもいつまで効果があるか」
「先生、俺の目は、あとどれぐらいですか?あとどれくらいで何も見えなくなるのですか?」
「そうじゃな…そろそろ行商をやめて国に帰ってきたほうがよいじゃろうの。探しものはまだ…見つかってはいないようじゃが」
「何を」
と、思わずトシは立ち上がった。
「何のことですか?」
その時ルイが洗濯から戻ってきたので、トシは気まずそうに座り直した。ルイは不満げな顔をして、洗濯物を入れていた籠を抱えていた。
「ずいぶんと膨れっ面じゃな」
と、リンビルが言った。
「シュウ先生の後をトウが追いかけていったもんだから、私も行ったんです。そうしたら、君は診療所に戻りなさいって言われて…。やっと帰ってきたと思ったら、またすぐにどこかに行ってしまうのだから」
と、ルイはふんと鼻息荒く、奥の部屋へと入っていった。リンビルはまたホッホッと笑った。
「なあ、トシよ。おぬしはまだ若い。もっと自分を大切にして生きなさい。誰かのために生きるのも良いが、それで命を削っては喜ぶ者はおらぬぞ。特にシュウは怒るじゃろうの、おぬしが自分を粗末にするようなことがあれば。見えているうちにやりたいことも、まだまだたくさんあるだろう、おぬしには」
そう言うと、リンビルは薬の調合を始めた。トシは黙ったまま、ルイが入っていった奥の部屋の方を見つめていた。
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