聖剣 ①

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聖剣 ①

 大工の親方は、右足を骨折していた。弟子たちに手伝ってもらいながら親方の手当てをし、ショックで泣いているロニを落ち着かせてからシュウはその場を後にした。  歩くシュウの横にはトウがピタリと寄り添っている。曇り空の中、歩く道は所々がぬかるんでいた。今は雨の季節。次から次へとやって来る雨雲に終わりが見える頃、空にはココラル(翼を持った犬)の大群がやって来る。そしてそれと同時に春が訪れる。 「そろそろ君の家族がまたこの国にやって来る季節だね、トウ」  トウは、クゥンクゥンと鼻を鳴らしながら空を見上げた。 「君が来てから、もう十年にもなるね」  ココラルは春を告げる神として古くから崇められている神聖な動物だ。だから人間は決してココラルを捕らえてはならないとされている。  しかし、十年前、怪我をして弱って動けなくなったトウを、シュウが見つけて家に連れて帰った。罰が当たるかもしれないと弱気な家来には構うことなくシュウは付きっきりで看病し、トウの命を救ったのだった。  トウは元気を取り戻しても、群れに帰ろうとしなかった。シュウのそばから片時も離れなかった。そうしているうちにココラルの群れは次の土地へと飛び去っていった。  一年ごとに春がくるたびに、ココラルの群れはやって来たが、トウは仲間の元には帰らずシュウのそばにいた。シュウが困っているときには助け、悲しんでいるときには寄り添った。   ココラルが春を告げる神として崇められているのは、ちょうど春の季節にやって来るからだけではない。ココラルには、命の始まりと終わりを感じる不思議な能力がある。ココラルが頭上でくるりと回りながら飛べば、それは新しい命が誕生したことを告げ、激しく吠えたならば、それは命が消えようとしていることを告げているのである。  命の始まりと終わり、それを告げるココラルは、どの国でも神聖な生き物として歓迎され、時に怖れられてもいるのである。
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