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「終わりにしよう」
夏休みが始まる前の最後の下校の時、しばらく歩いてから、貴方はそう言った。
いきなりのことで、私はその場に立ち止まる。
貴方は、自転車を押しながら歩いていたが、私をおいて、そのまま歩いて行こうとした。
「……待ってよ……」
やっとの思いで声が出たが、貴方には届いていないようで、歩みを止めてくれない。
頭が真っ白で何も考えられない、パニックに陥る私。
「ねぇ! 待ってよ!」
喉の奥が焼けるようだった。
必死にそう大声が出た。
さすがに今度は聞こえたようで、振り向きもせず、あなたは立ち止まるだけ。
「なにを……終わりにするの?」
恐る恐る、口をわなわなさせて私は言う。
「明日から夏休みじゃん? だからさ、別れよう」
「意味わかんないよ! 何か悪いことした?」
「悪いことは、してないよ。でも、良いこともないんだ。お前に、魅力を感じなくなったから、終わりにしよう」
耳の奥の方で、海のさざ波が聞こえた。
暑くて眩しいはずなのに、目の前が黒く塗り潰されていく。
頭が真っ白になるとか、目の前が真っ暗になるとか、過呼吸になるとか、冷や汗をかくとか……パニックの症状が、一気に私に襲いかかる。
私は、その場に膝をついて、しばらく彼の後ろ姿を眺めていた。
夏の日差しは私のことをこれでもかと突き刺してきた。
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