第5話 早智への想い(辰則(雪)視点)

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第5話 早智への想い(辰則(雪)視点)

 ベッドの上に高野辺……いや、早智を横たわらせる。  ここは高層マンションの一室。僕が白河家の養子として迎えられた時に与えられた部屋だった。  そう、白河家は、中学に上がる時に引き取られた親戚ではない。僕が早智を手に入れるために選んだ、家柄だった。  格式としては、早智の家である高野辺家から比べると落ちる。  が、リバーブラッシュという大手企業を抱えている、という面では力のある家だった。それも、未だに一族経営をしているところがいい。  ただがむしゃらに働いて社長になるよりも、養子縁組をする方がよっぽど効率が良かったからだ。のし上がる、という意味では。  あと高野辺家を納得させる部分でも、十分に説得力があった。 「ただの孤児じゃ、反対されるのは目に見えている」  財産目当てだと警戒されるからだ。  前に早智が言っていた。 『叔母さんの旦那さんは、結婚してからしばらくすると、仕事をしなくなったの。だから離婚させられたんだって』 『大叔父さんは土地を売って生活している、とか』  つまり、早智よりも稼ぎが良く、財産を食わない存在。それが最低条件だった。 「今、思うと、べらべらと喋り過ぎだよ」  まぁ僕にとっては好都合だったけれど。高野辺家が求める人物像が絞れるからだ。  けれど一つ心配なことがある。  それは、本人は喋ってはいけない、という自覚がないところだった。  気を許してくれているのは嬉しいし、そこが早智の良いところだった。けれどそれは、僕だけに対してではない。  誰にでも優しくするから、心配になる。  今だから言えることだけど、そういう情報は誰かに利用され易いから要注意なんだ。さすがに今は自覚していると信じたいけれど……。 「それから、変にお人好しなところも危なっかしかったな」  早智は時々、安請け合いをするのだ。無闇矢鱈にすると、ガキ大将こと瀬尾(せお)雄也(ゆうや)が威嚇するから、パシり扱いまではされなかったが……。  あれは明らかに、早智への好意を示していた。幸い、不器用過ぎて気づかれてはいなかったが。  だけどあまり安請け合いをしてほしくなくて、聞いたことがあった。 『どうしてホイホイ引き受けるんだよ? いいように使われているだけだって、高野辺だって分かっているだろう』 『……だって、皆との接点がほしいから。私も皆と同じだって』 「そして普通がいいって。普通になりたいって言っていたよね」  眠る早智の手を握る。 「僕も思っていた。普通に両親がいて、普通に皆と遊びに行けて……いや、ここは高野辺と、早智と出かけたかった。堂々と」  でも孤児だから、そんな自由にできるお金はない。施設だって、僕たちを養うのに精一杯だったのだから、そんな贅沢は言えない。  幼い子たちの面倒を誰かに押しつけて遊びになんて……それこそできなかった。  早智がそれを知ったら、絶対に軽蔑される。旧家の生まれとあってか、早智は面倒見がいい方だった。  だから僕も……そのお零れをもらえたんだ。でもそんなことはどうでもいい。  あの日、助けてくれて、ずっと僕の傍にいてくれた早智。哀れみや施しじゃない、優しさと温かさをくれた早智。  絶対に誰にも渡したくはなかった。傍にいられない間、誰かのものになったら、と気が気じゃなかったけれど……。 「こういう時、早智が高野辺家の人間であってくれて良かったよ」  交際関係にうるさいから。 「だから早智に釣り合う男になりたかった。横に並んでも、いや前に立って守れるくらいの男に」  そっと早智の前髪をかき分け、顔を近づける。寝ている女性にするのはダメだと思ったが、感情を抑え切れなかった。  僕はそのまま、早智の額にキスをした。
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