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第6話 目覚めた場所
「ん、んん~」
目が覚めると、私は何故か見知らぬ部屋にいた。しかも、ベッドの上で。
これを叫ばずにはいられようか! と思った瞬間、口を抑えた。
もしも部屋の主に気づかれたら大変だ。そもそも何でこんな状況になったんだろう。
確か、会社で怖いお姉さま方に囲まれて、副社長……が雪くんで……。
それで帰りに駅へ向かっていたら、その雪くんがいて……。
「それから……どうしたんだっけ?」
あぁ、そうだ! お姉さま方が総務課で、雪くんの秘書をしているんだった。
そこまでは何とか覚えている。だけどその先は、と頭を抱えていると扉が開く音がした。
思わず視線を向けると、見知った人物が立ちすくんでいる。
雪くんだ。良かった、雪くんならこの現状の答えを……と思った瞬間、あることに気がついた。
自分の身なりだ。
雪くんがいて、私がベッドの上って、マズくない? マズいよね、色々と。
けれど雪くんは、それを確かめる時間さえも与えてくれなかった。
「だ、大丈夫か? 具合は? 今度は頭が痛いのか?」
「え? え? え?」
何?
扉の近くにいた雪くんが、いつの間にかベッドの脇にいて、さらに顔を近づける。加えて矢継ぎ早に尋ねられたものだから、私の脳内はパニックに陥った。
「ち、近い! 近いってば!」
「ごめん。昨日、気持ち悪いと言って倒れたから、つい」
そうだ。お姉さま方に狙われているのにも拘わらず、雪くんは私に接触してきたのだ。しかもそれを知った上で……。
雪くんは知らないのだ。お姉さま方の恐ろしさを。わざわざ私と雪くんの関係を詮索し、且つ確認という牽制までしに来た人たちだ。次に何をしてくるか分からない。
今までは高野辺家の人間ということで、他の女の子たちは手を出さずにいてくれていたけれど、この手の問題を知らない私ではない。
咄嗟に、面倒事に巻き込まれると悟った私は、雪くんを拒絶した。それなのに……。
「どうして、私はここにいるの?」
「あんな状態で、高野辺家に帰すわけにもいかなかったんだよ。会社、というのもあるけど、僕も立場上……」
「っ! それなら尚更じゃない? ここが何処だか分からないけれど、何の連絡もなしに外泊したら」
何て言われるか分からない。いや、下手したら会社を辞めさせられて、高野辺家の息のかかった勤め先に行かされるかもしれない。姉さんたちがそうだったように。
それが嫌だから、自宅から通うことを条件に、外へ出たというのに……! 全て台無しになってしまう。
「大丈夫。高野辺家には、上手く言っておいたから」
「な、何て?」
「僕付きの秘書になりましたので、暫く慣れさせるために、こちらが用意した部屋に住んでもらうようにしました、と」
「えー! そんな取って付けたような理由……じゃなかった、それで納得する人たちじゃないでしょう? 雪くんだって――……」
「だから、結婚を前提にお付き合いしている、と言った」
え? 今、何て言った?
そう顔に出ていたらしい。雪くんは念を押すように、言葉を重ねる。
「ずっと高野辺が、いや早智のことが好きだったんだ。再会してすぐに言われてもピンとこないと思うし、困ると思ったから打ち明けなかったけど……って早智?」
「え?」
「聞いてた?」
「う、うん。雪くんが……私を、好き……だって」
私の困惑した表情に、雪くんが動揺している。
分かっている。告白は勇気がいるものだから。それなのに私の反応がイマイチだったら、尚更だ。
だけど仕方がない。私も……雪くんのことが……。
「好き。……私も雪くんが、好き」
「早智!」
でも! この状況は、いや現状がよくなかった。
私の返答を聞いて嬉しそうに駆け寄り、抱き着こうとする雪くん。けれど私はそれを押し退けた。
当然、雪くんは困惑している。
「早智?」
「ごめんね。告白してくれたのは嬉しかったし、とても有り難いんだけど、ちょっと頭の中が今、滅茶苦茶で……」
何から聞くべきなのか、素直に喜んでいいのか、分からなかったのだ。
すると、押しのけたのにも拘らず、雪くんは再び私に向かって腕を伸ばす。
「こっちこそ、ごめん。僕もいっぱいいっぱいになっていたから、早智の気持ちを疎かにした。告白も……勢いでしたのは反省している。だからプロポーズはちゃんとやるから――……」
「は、早い! 展開が早いよ、雪くん!」
今度は押す前にギュッと抱きしめられてしまった。お陰で、シャツを掴んでも引き離せない。
「まずは、状況の説明をして! 順番に!」
「そうだった。それを話したいために、早智を待っていたのに……。僕は昔から早智のことになると、周りが見えなくなるみたいだ」
「そう、なの?」
小学生の時はずっと一緒にいたけど気がつかなかった。
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