鬼コーチは?

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鬼コーチは?

 今日の昼飯は茜と一緒に食う事になった。近くのコンビニでそれぞれ買って来て部室に戻って食う。茜は桐原と違って奢ってくれなかったなー。 「なぁ茜、お前が食ってるの何?美味そうだな」 「普通の焼肉弁当だよ。やらねーからな」 「ちょっとだけくれよ。ほら、俺のこの紫色の漬物やるから」 「お前漬物嫌いなだけだろ!好き嫌いしないで自分で食えよ!」 「ちぇ、肉だけでいーのによぉ」 「俺のおかずが減るじゃねぇか。……秋山っていつもこうなのか?」 「ん?そーだけど?」 「彼氏がいるって言ってたけど、お前のどこが好きなんだ?」 「さあな。一緒にいて楽な所じゃね?俺もそうだし」 「へー、でもやきもちやきなんだろ?疲れないのか?」 「疲れる!なぁどうしたらやきもちやかなくなるんだ?教えてくれよ先輩」 「そこはお前のが先輩なんじゃなかったのかよ……」 「隙あり!肉は貰ったぁ!」 「って何しやがる!行儀わりぃなぁ!」  俺は茜の美味そうな焼肉弁当の肉を一枚奪う事に成功して、そのまま口に入れる。  俺が買ったのは唐揚げ弁当。代わりに唐揚げをやる事にした。 「うまー♪次は焼肉弁当にしよーっと!唐揚げ一個やるよ」 「ああ、ありがとう」  茜は俺が差し出した弁当から唐揚げを取ると、パクッと口に入れた。何とも言えない顔して食ってるけど、美味くなかったのか? 「唐揚げ不味かったか?」 「いや、こういうの慣れてないんだ」 「は?コンビニ弁当の事か?」 「違う。誰かとおかず交換したりする事だっ」 「あ、お前友達いなそうだもんな」 「……否定はしない。お前は多そうだな友達」 「多くはねぇよ。普通にいるけどな」 「敵も多そうだな」 「それならいっぱいいるぞー。代表的なのは担任だな!あいつは手強い!」 「先生の事あいつとか言うなよ」 「あと桐原もだな。良い奴だけど、空を苦しめるから俺の敵だ」 「桐原か。お前の彼氏って桐原より良い男なのか?」 「おう!俺が惚れた男だからな♪」 「桐原もモテるぞ?俺は何とも思わないけど、周りはみんな桐原桐原騒いでるし」 「まー、あいつがモテる理由も少しは分かるけどな。後輩に奢ってくれるし」 「俺は奢らん」 「そう言えば、桐原が過去に酷い振られ方したって聞いたけど、茜は知ってるのか?」 「いや、桐原とはそこまで話さないから」 「あー、お前友達いねぇもんな」 「二度も言うな」 「どんな振られ方したんかなぁってさ、みんな大好き桐原を振るとかさ」 「確かに気になるな」 「茜が聞いてみろよ」 「何で俺なんだよ。俺は桐原に興味ねぇよ」 「そう言えば昨日変な奴にライバル視されたんだ!」 「どんな奴だ?」 「前髪斜めで、右目隠してる奴!そいつにお前桐原の何だとか言われたんだ!」 「もしかしてデザイン部のか?」 「そう!桐原の事が好きらしいけど、そいつと付き合えば良くね!?」 「桃山か。それは無いだろ。桃山は桐原に相手にされてないし。てか桃山に目付けられたのかよお前」 「シカトしといたけどな」 「うーん、桐原に守って貰った方がいいと思うぜ」 「あ?何であいつなんかに」 「桃山は危ない奴なんだよ。前に桐原に告った奴がいて、そいつの事病院送りにした事があるんだ。それも直接何かした訳じゃなくて間接的にな。だから特に処分も受けなかったんだ」 「最低だなあいつ」 「桐原がいる時は何もして来ねーと思うからなるべく側にいた方がいいと思うぞ」 「茜ってば心配してくれてんの?」 「そりゃ……先輩として俺が守ってやれたら良いけど、俺じゃあ……」 「なら茜が守ってよ♪俺、桐原より茜がいい♪」 「お前……分かった!俺が桃山から守ってやる!」 「頼りになるー♪はー、腹もいっぱいになったし昼寝していーか?」 「ダメだ!お前寝たら起きなそうだからな!」  おー厳しい。食い終わったゴミを捨てようと茜の分まで片付けてると、驚いた顔して見ていた。 「ありがとう……」 「いいって事よ」 「秋山、すぐ戻るからちょっと待ってろ。俺が戻ったら練習始めるからな」 「ん」  いそいそと教室から出ていく茜。トイレか?  残された俺は部室に一人。暇だから机に座って頬杖をつきながら窓の外を見ていた。  天気いいなぁ。てか今夏休みなんだよなぁ。  あー、ゲームやりてぇなぁ。数馬の奴がこれまた上手くて、サクサク進むんだ。あとヒーラーさえいれば俺ももっと楽になるんだけどなぁ。  あ、マジで眠くなって来たな……茜に頼み込んで寝ちまおうかな?怒りそうだなーあいつ。  茜は普通に良い奴だ。俺と同じで口や態度が悪い時はあるけど、ちゃんと話聞いてくれるし、俺の意見にも向き合ってくれる。今まで先輩とか目上の奴らに好かれるってあんま無かったから不思議な感じだな。奢ってくれねーけど。  俺がどんなに口悪くても生意気な態度を取っても怒りつつも相手してくれる事が、俺は嬉しかったりもする。  あー、早く戻ってこねぇかなぁ。マジで寝ちまうぞ。  欠伸が出た時、ガラッと扉が開いて茜が戻って来たかと思って振り向くと桐原だった。 「たっかやー♡元気にしてるかー?」 「お前、何しに来たんだよ。サボりか?」 「可愛い後輩が心配で見に来たんだ。鬼コーチは?」 「どっか行った。すぐ戻るってよ」 「二之宮にいじめられてないか?」 「俺がいじめられると思うか?すっげー楽しくやってるっての」  ニヤリと笑って余裕で言うと、桐原は少し残念そうにしながら隣に座った。 「へー、仲良くなったんだ。妬いちゃうなー」 「妬くな。てか戻れよ。茜が戻って来ちゃうだろ。お前と遊んでると思われて怒られるだろーが」 「茜?二之宮の事名前で呼んでんの?」 「可愛い名前だよな。初めは嫌がってたけど、俺には呼ばせてやるってよ♪」 「へー、あの二之宮が教えてくれたんだ」 「何だよ?あ、やきもちかー?」 「そうだな。妬いちゃうな。俺の事は名前で呼んでくれないのにって」  桐原はグイッと近付いて来て言った。そんな事でか?でも俺の中で桐原はもう桐原だしなー。  そして桐原は顔を近付けて来て、もう少しでくっ付くってとこで止まった。 「ちけーよ。お前も名前で呼ばれてーの?」 「うん♡」 「やだね」 「じゃこのままキスしちゃおー♡」 「んな事したらぶん殴るぞ!」  身の危険を感じて体を桐原と反対の方に引いて距離を取るが、桐原はめげずに追い掛けて来た。  ふざけてるんだろうが、マジでやられたら洒落にならねぇからな。 「俺の事も名前で呼んでくれよ。なぁ貴哉」 「そこまで言われたら逆に呼びたくねぇな」 「あそ。じゃ遠慮なくちゅーしちゃおー♡」 「やめろ変態!」  桐原はいつもの感じで俺に近付いて来てまた俺との距離を縮めた。  俺は桐原の体を両手で押さえて必死で押し返そうとするが、こいつの体はびくともしない。意外としっかりしてる体してんじゃねーか!って、関心してる場合じゃねぇ!  このままじゃ桐原に襲われる!  本気でぶん殴ろうとした時、俺の救世主になるであろう茜様が戻って来た。
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