※俺が子供Aだと言ってるんですか?

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※俺が子供Aだと言ってるんですか?

 空side  絵を描いた事が無い俺はすぐに手が疲れてしまい、何度も鉛筆を置いて少し歩いては戻ってまた鉛筆を握る。それを何度か繰り返していた。  ふと他の部員達と目が合ったので、邪魔になると思って少し外に出る事にした。  てかよー、貴哉を書いてんだけど、貴哉の写メ持ってねーんだわ俺。前に中西の誕生会やった時に貴哉が女装したの撮ったのがあったけど、あん時は付き合ってなかったし、めちゃくちゃふざけてたからまともに写ってねぇの。貴哉の写メをそれしか持って無かった事が残念だった訳。  もっと貴哉の写メが欲しい。てか一緒に撮りたい!  そうだ、今年の夏休みの目標は貴哉との写真をいっぱい撮る事にしよう!  飲み物でも買おうと食堂近くの自販機まで行くと、食堂から数人の声が聞こえて来た。そう言えば貴哉が食堂は演劇部が使ってるって言ってたな。  もしかしたら貴哉に会えるか?いやいや、勝手に人様の部活に顔を出すほど俺は迷惑な人間じゃない。  ジュースを買って戻ろうとした時、誰かに呼び止められた。振り向くとそこには食堂から出て来た桐原さんがいた。 「やっぱり早川だ!貴哉に会いに来たのかー?」 「会わせてもらえるんですか?」  俺はこの人が苦手だ。桐原伊織。背が高くてスタイルが良くて、何でも出来ちゃう人気者の二年生。赤い髪が特徴的。貴哉の事が好きらしく、良く茶化されるから俺はあまり好きな人じゃない。  とは言っても貴哉と付き合ってるからそう思うだけで、貴哉を抜きにしたら普通にすげー先輩って思ってたと思う。 「残念だけど、今日から貴哉は鬼コーチとマンツーマンで特訓するんだって。だから俺もなかなか会えないんだわ。何飲みてーの?買ってやんよ」 「もう買ったんで結構です」 「まじで?じゃあ怜ちんに持ってってよ。ほい」 「はい」  紙パックのいちごオレを買って俺に手渡して来る桐原さん。こういう所がみんなに好かれるんだろうな。  俺はいちごオレを受け取って戻ろうとして、立ち止まって再び桐原さんに向き直る。桐原さんは笑顔のまま何?って感じで見て来た。 「桐原さんは、貴哉の事本気なんですか?」  良い機会だから聞いてみた。  一度貴哉無しで桐原さんと話したかった気持ちもある。 「一応本気だよ」 「知ってると思いますが、貴哉と付き合ってるのは俺です」 「そうだねー。貴哉がフリーだったら良かったのにって思うよ」 「諦めてくれませんか?」 「やだって言ったら?」 「……桐原さんの事は先輩としては尊敬してます。前から噂は聞いてたし、でも、貴哉の事になったら話は別です。全力で貴哉に近付くのを阻止します」 「さすが貴哉の彼氏♪そうこなくっちゃ」  俺が威嚇してるのにも関わらず、表情を変えず笑顔のまま楽しそうに話してた。こういう余裕な所も癪に触るんだ。自分が見下されていて、相手にもならないと思われているようで腹が立つ。  俺は感情を出さないように気をつけながら続けた。 「桐原さんが諦めないって言うなら先輩でも遠慮しませんよ」 「光栄だね。俺もその気で来てもらえたら方が心置きなく貴哉を奪えるわ」 「あなたって人は!」 「俺さ、これでも早川の事気に入ってんだぜ。だって俺が惚れた貴哉の認めた男なんだろ?どんなすげー奴かと気になってたけど、見た目は華やかで申し分無し。性格も好きな奴の為なら負けん気が強くて良いじゃん。俺から言わせてもらえば残念な所はガキみたいなやきもちのやき方しか出来ねーとこだな」 「それはあなたのせいでしょう!?」 「だからやき方だよ、や、き、か、た♪」 「はぁ?何言ってるんですか。訳が分からない」 「例えば、子供Aはおもちゃを取られて、悔しくて泣きながらやだやだと言いながら奪い返そうとする。しまいには取った相手を叩いたりして奪い返す。子供Bも同じくおもちゃを取られたけど、泣かずに落ち着いておもちゃを取った人と話そうとする。そして取った理由を聞いて納得して二人で仲良く遊ぼうと提案する。又は説得して返してもらう。どっちの方がカッコいいと思う?」 「……それ、俺が子供Aだと言ってるんですか?」 「例えばって言っただろ」 「くだらない例えですね。第一貴哉はおもちゃじゃない。子供Bが提案した二人で共有するっていうのにも納得いきません」 「そうですかー。ならそれでいいんじゃない?貴哉を奪われるんじゃなくて、失わないようになー」 「?」 「言っとくが、貴哉が早川から離れる理由なんて山程あるんだからな。俺が奪う事以外にもな」 「…………」 「んじゃ部活戻るわー!またな早川ー」  俺は何も言い返せずに食堂に入っていく桐原さんを見ていた。  さっきの桐原さんの話に捻くれて答えなかったけど、間違ってはいない。断然子供Bの方が利口でいいに決まってる。最後のだって、当然あり得る事だ。  貴哉はモテる。あんな性格だけど、惹きつけられる魅力があるんだ貴哉には。だから桐原さんみたいな人だって寄って来るんだ。  俺は見事に桐原さんに負けた敗北感を手に入れて美術室まで歩く事になった。
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