僕は貴哉くんの大ファンなんだ!

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僕は貴哉くんの大ファンなんだ!

   食堂へ向かう途中に桐原に気になる事を聞いてみた。桐原はニコニコ機嫌良さそうにしてる。 「なぁ、何で食堂なんだ?」 「そりゃ演劇部が食堂を使ってるからだよ」 「部室はねぇのか?」 「あるよ。教室二個分ね。でもそこは控室に使ってて、普段は食堂がやってない時間に机とかを片付けてそこで練習してんだ。終わった後に掃除もしてくれてるんだぜ」 「へー、なるほどな」 「俺からも質問!さっき副部長が貴哉を指名って言ってたけど、演劇部の誰かと知り合いなのか?」 「そんなのに知り合いなんかいねーよ。何で指名されたかは知らね」 「ふーん。向こうは知ってるのかもな貴哉の事」 「副部長が聞き間違えたんじゃね?俺と誰かを」 「そんな事はないと思うけどなぁ」 「お前も指名されてんだろ?知り合いなのか?」 「部長とは友達だよ。演劇部には何回か助っ人にも行ってるし」 「へー、桐原は何すんの?まさか演技すんの?」 「する時もある。結構楽しいぜ」  さすがみんなのアイドル様だな。何でも出来るとは聞いてるけど、部員でもねぇのに演技までするなんてな。まぁ俺は雑用か何かだろうからどうでもいいけどな。  食堂に到着すると、中から何人かの声が聞こえて来た。本当に練習してんだな。  そして桐原が両開きのドアを開けて中に入ると、まさかの光景に俺は驚いてしまった。  食堂は元々広い。普段飯食ったりで使ってる机と椅子を端に寄せて、空いた中央で二、三人が本を持ちながら何かをしていて、その周りに五十……いや、それ以上の人数が座って中央のやり取りを見ていた。そして入り口近くの机に数人が座っていた。  これ、全部演劇部なのか? 「すげぇだろ?これまだ半分くらいだぜ」 「そんなにいるのか!?」  中に入って桐原と中のやり取りを見てたら、机に座っていた一人が近付いて来て声を掛けられた。   「いーくん!よく来てくれたね!」 「うす!今回もよろしくお願いしまーす」  近付いて来た男は桐原と親しげだった。  背の高い、桐原と同じぐらいか?そしてスタイルがモデルみてぇに綺麗で、顔も女が好きそうな甘ーい感じの顔。垂れ目で睫毛が長い。  モデル野郎は俺に気付くとパァッと嬉しそうに笑って手を握って来た。 「秋山貴哉くんだね!いやぁ、こんなに近くで見れるなんて嬉しいなぁ♪」 「な、なんだぁ?」 「詩音さん、貴哉の事知ってるんですか?」 「知ってるも何も僕は貴哉くんの大ファンなんだ!いや~会いたかったよ~!」 「大ファンだぁ!?俺はあんたの事知らねーぞ!」 「貴哉ってば人気者~。俺ヤキモチやいちゃうなぁ」  桐原はケラケラ笑いながらモデル野郎に絡まれてる俺を茶化して来た。  いやいや何なんだよこいつ!咄嗟に握られた手を弾いて一歩引く。モデル野郎は気にする様子もなく、目を輝かせて俺を見ていた。 「あはは、まじウケる♪詩音さん、貴哉がキレる前にどう言う事か教えて下さいよ」 「ああ、これは失礼。僕は薗田詩音。演劇部の元部長だ。貴哉くんの事は二度見掛けた事があるんだが、あれは見事だった!」 「い、いつだよ?」 「一度目は公開告白。中央玄関で堂々と愛の告白をしていたね!男らしくて素晴らしかった!」 「あー、みんな知ってんだなそれ。俺も見たかったなー」 「もう一個は!?」 「もう一つが最高だった!この間、今回の演劇の事で悩んでいて中庭で考え事をしていたんだ。そしたら何と貴哉くんが上から飛び降りて来たんだ!」 「飛び降り?あー!あれか!生徒会室から飛び降りたやつな!」  そういえばそんな事あったな。空が中庭で他の男と浮気してるのと勘違いして飛び降りたやつ。  って、どっちも恥ずかしいやつじゃねぇか! 「その後も堂々と恋人を他の男から取り戻していたね!いやー、あれには感動したよ!それを見た瞬間、僕の悩みも吹っ飛んだんだ」 「何だよそれ?俺にも詳しく聞かせてー」 「ああ、いーくんにも話してあげるよ。貴哉くんの武勇伝♪今度ゆっくりランチでもしながら……」 「やーめーろー!お前ら俺の事馬鹿にしてんだろ!」 「とんでもない!僕は本当に君のファンなんだよ!だから是非とも僕の高校生活最後の作品に出演してもらいたくて、ボランティア部に頼み込んだんだ」  こいつ、本気か?本気だとしたら相当ヤバい奴だよな?今からでも美術部の方と変えてもらおうかな…… 「すげぇじゃん貴哉。詩音さんにこんなに気に入られるなんて。やっぱ俺が惚れた男だな♡」 「それ褒めてねぇからな?」 「さて、みんなにも貴哉くんを紹介させてくれ。みんなー!ちょっと中断して注目ー!」  モデル野郎がパンパンと手を叩いて大きな声で食堂内にいる全員を呼ぶと、一斉に反応してこちらを見た。喋ってる奴なんて一人もいねぇ。シーンと食堂内が静まり返る中、モデル野郎は俺の肩を押して前に出して喋り出した。 「昨日話した通り、今回の演劇にボランティア部の二人が参加してくれる事になった。いーくんの事はみんな知ってるね?そしてこちら秋山貴哉くんだ。僕に素晴らしいアイディアをくれた神のようなお方だ!くれぐれも失礼のないように」  モデル野郎のふざけた紹介に、食堂内が騒ついた。こいつ、ほんとイカれてやがる。 「だぁ!何つー紹介の仕方してんだ!神とかキモい事言ってんじゃねぇよ!」 「本当の事じゃないかー♪さぁ、二人からも一言お願い出来るかい?」 「じゃあ俺から。えーっと、今回また演劇部にお世話になる事になった桐原です。詩音さんの紹介にもあった通り貴哉は本当すげぇ奴だ。一年生で口悪いところあるけど、みんなもすぐ仲良くなれると思うんでよろしくー♪あ、ちなみに貴哉は俺の男なんで手出した奴は処刑すっから♡」 「テメェもキモい事言ってんじゃねぇよ!」 「ほら、貴哉も一言~♪」 「お前らのせいで喋りにくくなっちゃったじゃねぇか!くそ!」  さっさと話して終わらせようとじっとこちらを見て俺が喋るのを待ってる奴らに体を向ける。  うっ、めちゃくちゃ見られてんなー。 「この二人が言ってる事はほとんど冗談だけど、協力するのは本当だ。つー訳でよろしく!」 「はいみんな拍手ー!」  モデル野郎が言うと一斉に食堂内にみんなの拍手の音が響いた。  幼稚園のお遊戯会かよここは。恥ずかしくて今すぐに帰りたくなったが、我慢した。 「一人が何かをやり遂げた時は必ずみんなで讃えるようにしているんだ。そして次のステップへ進む。改めてよろしく頼むよ貴哉くん♪」  んんー、こいつ何か苦手だぁ……
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