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俺は貴哉のパシリです
その後演劇部は練習に戻り、俺と桐原は詳しい話をする為にモデル野郎と新しい部長と副部長の五人で演劇部の部室に来ていた。
部室は裏校舎の一階にあり、普通の教室ぐらい広い部屋が二つあった。一つは更衣室兼物置らしい。その隣のもう一つには大きな鏡があって、後ろの方に机があり、そこで話す事になった。
「貴哉くん、こちらの二人は僕が引退したら新しく部長になる卯月くんと副部長になる二之宮くんだよ。二年生だよ。二人共、貴哉くんはこれからの演劇部に革命を起こす存在だ。丁重にもてなすように」
「はい。薗田部長」
「……はーい」
卯月って言う新部長になる男は笑顔でモデル野郎の言う事を聞いていた。が、隣にいる副部長になる男、二之宮って奴はずっと俺を睨んでた。
面倒だからシカトしとこーっと。
「それじゃあ本題に入るね。今回の演劇の内容だけど、あ、台本を渡すね。読みながらでいいから聞いてね。分かってると思うけど、くれぐれも内容は口外しないようにね?」
人差し指を唇の前に立てて言うモデル野郎に渡された本をペラペラと捲ってみるけど、文字ばかりであんま興味無かったからすぐに閉じて机に置いた。桐原はちゃんと読んでるみたいだ。
「なるほど。最後は恋愛で行くんですね」
「凄く迷ったけどね。僕の得意なサスペンスで行こうかと思っていたんだけど、神のお告げがあったんだ。恋愛にしなさいと」
「いや、俺を見るなよ……」
「ずっと前から決めていたものを急に変更したから今部員達もバタバタしているんだ。でも彼らならきっとやり遂げてくれる。そこで君達にも協力してもらえないかと思ってね」
「全力を尽くしますよ。見たところ俺は主役のドラゴンになってますが、いいんですか?そんな大事な役を部員以外が演じて」
「もちろんだよ!いーくん以外にいないと思っているんだ。その赤い髪もイメージにピッタリ!これには部員達も納得してくれているから気にせず演じて欲しい」
「それなら遠慮なく。それと貴哉ですけど……」
「ん?」
桐原達が話してるのをボーッと聞いてたら急に俺の名前が出て少し驚いた。ここで二之宮の睨みが更に強くなった。
「魔女の弟子役……貴哉が舞台に出るんですか?」
「ふふ、面白いだろう?貴哉くんの容姿を見て裏方じゃ勿体無いなと思ってね。綺麗な顔をしているし、表情筋のトレーニングをすれば女役もイケると思うんだ。そして何より中庭でのあのインパクトが忘れられないんだ!是非またあの興奮を味わいたくてね!」
「はぁ!?女役だと!?ってか、俺演技すんのか!?」
これには思わず立ち上がって文句を言ってしまった。そんなの出来る訳ない!しかも女役って何だ!俺は男だぞ!
「うーん、詩音さんの言ってる事も分かりますが、貴哉はど素人です。それに演劇とかも見た事ないと思いますよ?ちょっとした役ならともかく、結構出番ありますよね?大丈夫かなって」
「俺も反対です。部員達全員が役をもらえる訳じゃないのに、部外者のそれも一年がいきなり役を貰えるなんて納得出来ません!」
ここでずっと俺の事を睨んでいた二之宮がモデル野郎に向かって言った。俺だってそんなのやりたくねーよ。
「二之宮くん。だからこそ主役の次に大事な魔女役を君に任せるんじゃないか」
「…………」
「なぁ、俺話に付いていけねーんだけど」
「二之宮の言ってる事も分かるよ?でもまぁ俺も貴哉の女装見たいなーって。なぁ貴哉やってみるか?」
「やらねーよ!俺はてっきりゴミ捨てとかそういうのやるだけかと思ってたんだ!」
「神にそんな事させる訳にはいかないよ!なぁお願いだよ貴哉くん。僕の最後の舞台、協力してくれないかな?」
「あの、詩音さん、少し時間くれませんか?そうだな、明日!貴哉は明日までに返事をする。やっぱりいきなりだし、俺が前向きに説得しますんで」
「桐原が何と言おうが俺は嫌だからな!」
「お前な!さっきから黙っていれば、二人に向かって何だよその口の聞き方は!」
「うるせーな!これが俺だ!てかこっちが協力してやるんだから口悪くてもいいだろーが!」
二之宮に指を差されながら怒られたから、ずっと睨まれてて気分の悪かった俺も遠慮なく口答えしてやった。あームカつくなほんと!
ここでずっとニコニコしながら話を聞いていた卯月が腹を抱えて笑い出した。
「あはは、本当に面白いな秋山くんは。さすが薗田部長が選んだだけはありますね」
「そうだろう?きっと貴哉くんなら素晴らしい舞台にしてくれると思うんだ」
「勝手に言ってろ。おい桐原!俺は先に戻るぞ」
「ちょ、貴哉待てって」
イライラが収まらないから勝手に演劇部部室から出てってやった。
桐原は少ししてから追い掛けて来た。
「貴哉!」
「やっぱり俺美術部の方にするわ。あいつらとやっていける気しねぇわ」
「逃げるのか?」
「はぁ?」
「まだやってもいないのに、面倒くさい、気に入らない奴がいる、やりたくない。そうやって逃げるのかって聞いてんだ」
「ああそうだよ!俺に出来る訳ねぇだろ!」
「俺も初めはそうだったよ。失敗もたくさんした。演劇に限らずだ。でも何でもやった。出来ない事が出来るようになった時がすげぇ気持ち良いからな」
「相変わらずの変態だな」
「だからさ、貴哉もやってみようぜ?俺が協力するから。それに、裏方で頑張ってノルマクリアするより、表に出てクリアした方が分かりやすいと思うんだ。葵くんも、貴哉の担任もさ」
「…………」
「貴哉なら出来るって。面倒な事は俺が全部やるから。な?」
「……言ったな?」
「ん?」
「面倒な事全部やるって言ったな?つまり俺のパシリになるって事だよな?そうだよな?」
「パシリ?ちょ、それとこれとは……あーもうパシリでいいよ。そうです。俺は貴哉のパシリです」
「それなら空の嫌がる事とか言うんじゃねぇ!あいつ、すげぇやきもちやくから大変なんだぞ!」
「分かったよ。貴哉の言う事聞くから」
「ふんっならやってやるよ。あ、パシリは文化祭終わるまでずっとだからな!」
「はいはいご主人様」
もう桐原は呆れたように笑ってた。
これで空も少しは元気出るだろ。
演劇なんて出来る気がしねぇけど、周りがやれって言うんだ。もうどうなっても知らねー。
俺は俺のやりたいようにやってやる。
俺はくるっと方向を演劇部部室の方へ変えて、置いて来た台本を取りに戻った。
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