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俺に?てか誰これ?
今日は直登にチワワにとても忙しい日だった。
結局、チワワが立ち去った後の桃山はスッと大人しくなってジュースを持って部室に戻れた。一応、茜との約束は頭にあるらしいな。
茜にはチワワの事は話していない。でも、チワワも本当に悪いと思ってるんなら謝る時間を与えてやってもいいんじゃないかって思うんだ。
部活が終わって、俺と茜は今日は掃除当番なので残って食堂の床磨きをしていた。
一生懸命床をモップで磨く茜は真面目そのものだ。誰がどう見てもクソが付くぐらいの真面目野郎。その性格のせいで前に揉めたって聞いたけど、逆に好きだって言ってくれる奴もいた事に俺は驚きつつも嬉しかった。
そうだよな、茜っていい奴だもん。ちゃんと見ててくれる奴いて良かったな。
「おい秋山!サボってないでちゃんとやれよ」
「いやー、青春だなぁってさ」
「はぁ?つまりサボりだろ。そんなんじゃいつまでも帰れないだろ」
「なぁ、茜はチワワの事どう思う?」
「チワワ?ああ、小平の事か。別に何とも思ってないぞ……前にも言ったけど、演技力は認めてるけどな」
「二人って何かあったのか?」
「別に。クラスも別だし、部活でしか顔を合わせない仲だよ。あ、俺がリーダーを任されてた頃、あいつが俺のチームにいて、そこでは話したりしたけどな」
「ふーん。何かさー、チワワが知ってたんだよ。茜が部活辞めるって事」
「部長か薗田さんにでも聞いたんだろ。次の副部長を任せるなら小平だろうからな」
「そんでさ、茜が辞める理由が自分のせいだって思ってるみてーでよ。謝りたいんだって。どうする?」
「……本人が言ってたのか?」
俺の質問に淡々と答えていたのに、こればかりは手を止めて聞いて来た。
「そうだよ。泣きながら言ってたぜ。二人に何があったのか知らねーけど、悪い事をしてちゃんと謝れる奴は俺はすげぇ奴だと思ってる」
「俺も同感だ。分かった。小平と話してみるよ」
茜は笑って言った。うーん、でもチワワが好きだって言ってたのは黙ってた方がいいよな?茜には桃山がいるし……あ!桃山の事も話さなくちゃ!
「そうだ!チワワと話すなら二人きりで話せよ?桃山のやつ、チワワの事ボコボコにしようとしてたんだ」
「何で!?」
「この前チワワが茜の事を馬鹿にしたじゃん?それ知ってブチギレたんだよ。あいつ」
「まさか昼休憩の時か?どうりで戻るのが遅いと思ったら……分かった。それも頭に入れておくよ。巻き込んでしまって悪かったな」
「俺の事は気にすんなよ。チワワがすげぇ悪い奴じゃねぇって知れたし」
「そうか。話は変わるが、薗田さん達が秋山を褒めてたぞ。この短期間で良くやってるって。俺も鼻が高かったぞ♪」
「鬼コーチのお陰ですよーだ」
「いや、秋山は本当に良く頑張ってる。自慢の後輩だ♪」
「照れるから辞めろって」
「あはは、可愛いなぁ秋山は。よし、片付けて帰ろう」
茜は楽しそうに俺の分のモップまで片付けてくれた。なんかなー、俺も茜と遊びたいけど、このまま部活辞めちゃうの勿体ない気もするんだよなぁ。
まぁ茜が決めた事だから言わないけどさ。
掃除が終わって、ボラ部の部室に戻って俺は驚いた。だって直登がまだいたからだ。
すっかり数馬の隣に座ってベタベタしてた。
美術チームも戻ってたみたいで、怜ちんに明るく挨拶された。
「あ、貴ちゃんお帰り~」
「おう、お疲れー。なぁ直登ずっとここにいんの?」
「見学しに来てくれたんだってー♪仲間が増えるの嬉しいね~」
「いや、でもこいつは数馬目当て……」
「貴哉!空くんが美術室で待ってるって言ってたよ!早く行ってあげて?」
「お、おうよ」
本当の事を教えてやろうとしたら、直登に目で「余計な事言うな」と言われたから黙る事にした。
そして空がいない事にも気付く。
何で美術室なんかに?
近いからいいけど、俺は言われた通りに空が待ってるらしい美術室へ向かった。
そして静まり返った廊下の先にある美術室に入ると、椅子に座ってた空が振り向いて嬉しそうに笑った。
「貴哉!」
「空がここにいるって聞いたから来てやったぜ」
空が座ってる場所まで近付いて行くと、空はニヤリと笑ってじゃーんと俺にスケッチブックを開いて見せて来た。
スケッチブックには黒髪の男が描かれていて、ニッコリ笑っているように見えた。
「へへ♪俺が描いたんだぜ?どう?上手いっしょ?」
「これ空が描いたのか!?すげぇじゃん!」
「貴哉にプレゼントしたくて頑張ったんだぁ♡」
「俺に?てかこれ誰?」
「ちょ!貴哉だよ!分かって無かったのかよっ」
「俺ぇ!?俺こんなかっこよくねぇだろ!」
「かっこいいの!俺から見た貴哉だもんっ」
「んー、まぁ嬉しいかな♪空が一生懸命描いてくれたんだもんな♡ありがとうな♡」
「うん♡俺な、絵なんて全然興味なかったけど、楽しく描けたよ。怜ちんが教えてくれたのもあるけど、何より、貴哉の事を想いながら描くのがめちゃくちゃ楽しかった」
「そっか。これ普通に上手いと思うぜ?似てねぇけど。空には絵の才能あるのかもな!全然似てねぇけど」
「もっと貴哉を描くよ!楽しみにしてて!」
ガッツポーズを作って張り切る空は可愛いくて仕方なかった。髪を切ってもチャラさは残ってて、中身もそのまま空だったから俺は楽しそうに話す空を見てたら嬉しくなって、自然とキスをしていた。
「楽しみにしてる♡」
「貴哉っ……好き♡」
「俺も大好き♡」
その後何度かキスをしてから手を繋いで仲良く美術室を出た。貰った絵はくるくる筒状に巻いて、俺は鞄を持って来てなかったから、とりあえず空の鞄に入れさせて貰った。
額縁買って飾ってやろうか?空が俺を考えながら描いてくれた事が嬉しくて隣を歩きながらそんな事を考えていた。
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