ところで貴哉くんは泳げるのかな?

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ところで貴哉くんは泳げるのかな?

 今日は部活が休みになるはずの金曜日。だけど、演劇部が毎年開催しているという、夏休みBBQ大会に強制参加させられていた。  臨時部員の伊織はノリノリだったけど、俺は朝早かったからちょっと不機嫌。しかも今日は空がいないから伊織に起こしに来てもらったから余計だ。起きたら隣に伊織がいて飛び起きたんだけど、伊織の奴もう手出さねぇとか言ってなかったか?  引退した三年も含めて全部員参加との事で、バスを二台も貸し切って俺達はとある山まで来ていた。  まぁ来週はお盆休みで部活無いからいいけど。   「秋山、外見てみろよ!自然が凄いな!」 「興味ねー。てかもう着くのか?」  俺の隣の窓側の席に座る茜がガキみてぇにはしゃいでるけど、全然興味無かった。だって木ばっかで進めば進むほど何も無くなって同じ景色ばかりだからだ。 「二之宮は子供だなぁ!こんなのではしゃいじゃってさ!まぁ大型バスってワクワクするし、気持ちは分かるけど♪」  出たー!キャンキャンうるせぇチワワ!  後ろの座席からひょこっと顔を出して茜を茶化してた。 「黙れよチワワ!お前の声って頭に響くんだから!てかお前何でこっちのバス乗ってんだよ!伊織のとこ行けよ!」 「別に俺がどっちに乗ろうと勝手だろー?秋山ずっと寝てるだけなんだから席変われよ!」  チワワとは一悶着あったけど、今はこうして少し言い合うだけになった。茜とも話し合ったみたいで、普通にしてるのを見ると仲直りしたっぽいしな。 「なぁ、茜ー?こいつと何話したんだ?あれからずっとお前に付き纏ってんじゃねぇか。部活の時だってちょこちょこ来ては俺を厄介者扱いしやがる」 「何って、すれ違っていた事をお互い話したんだよ。小平もちゃんと謝ってくれたよ」 「へー、そんで?」 「そんでって何だ?」 「だーかーら、チワワの気持ち聞いたんだろぉ?お前も隅に置けねぇなぁ」 「はぁ?」 「秋山黙れ!何余計な事言ってるんだ!」 「何だよ、お前もしかして言ってねぇのか?」  どうやらチワワは好きだって事は話してみてぇだな。まぁ茜には桃山がいるし、言っても報われねぇもんな。 「どんまいチワワ」 「きぃ~!お前ほんと生意気だなぁ!てかチワワって言うの辞めろよ!」 「やだね。お前の名前知らねーし」 「小平七海だよ。秋山も仲良くしろって。一応先輩だぞ」 「俺より背低いじゃん」 「それは関係ないだろ!」  俺達が話してると、もう一人前から歩いて来た男がいた。その人物はとてもお洒落な格好で、一際目立っている三年生。みんなの憧れの元演劇部部長、薗田詩音だ。今日は綺肩まである綺麗な長い髪黒髪を縛って右肩に掛けて前に出していた。 「やあ賑やかだね。僕もご一緒してもいいかな?」 「薗田さん!勿論ですよー♪」  詩音の登場でチワワがまたキャンキャン声を出し始めた。茜はペコリと頭を下げていた。  詩音は俺達の反対の列の空いてる席に座った。つまり俺の横に。 「よう詩音。元気そうだな」 「久しぶりだね貴哉くん♪会いたかったよー」 「秋山お前馴れ馴れし過ぎるだろ!敬語使えよ!」 「俺はいいんだよ。お前こそ大人しくしてろよ」 「相変わらずだな貴哉くんは♪楽しい人だ。今日は来てくれてありがとう。是非楽しんで行ってよ」 「そうするー。肉いっぱい食う♪」 「薗田さんー、秋山を甘やかしていいんですかー?こいつ調子に乗りますよー?」 「今日ぐらいはいいんじゃないかな?ねぇ?茜コーチ」 「はい。秋山は普段頑張ってますからね」 「二之宮まで!どうしてみんな秋山に甘いのー!?」 「おや、小平くんは貴哉くんの魅力に気付いてないのかい?」 「こいつの魅力ですかぁ?俺にはただ口悪くて生意気な一年にしか見えませんけどねぇ?」 「俺もお前の事ちっさい一個上のおっさんにしか見えねぇよ」 「またおっさんって言ったなぁ!」 「秋山、おっさんはないだろ。まだ高校生なのに」 「いいね!貴哉くん!その返しナイスだよ!やっぱり君は神だ!」 「薗田さんてば褒めてばかり!悔しいけど、羨ましいー!」 「へいへい。もう何でもいいけど、まだ着かねぇのかよぉ」 「もう少しで着くよ。ところで貴哉くんは泳げるのかな?」 「普通に泳げるけど、何で?」 「あ、アレですね?薗田さん♪秋山にも参加させるんですね~」 「なぁ何だよアレって!」  詩音に泳げるか聞かれた後、チワワはニヤニヤ笑いながら俺を見て来た。茜も知ってるみたいで笑っていた。 「バーベキュー会場のすぐ側に大きな川があるんだ。そこは大人でも肩まで浸かってしまうぐらい深くてね、毎年一年生にはそこで泳いでもらう事になってるんだよ♪まぁ体力作りの一つだね~」 「はぁ!?やだ!てか着替えこれしかねぇし!そもそも俺演劇部じゃねぇし!」 「去年、いーくんも臨時だったけど泳いでたよ?あれはかっこよかったなぁ!ダントツ一位で賞金も持って帰ってたしね」 「ん?賞金が出るのか!?」 「そうそう。一斉にスタートして反対岸に置いてあるノートに名前を書いて一番先に戻って来た人の優勝。優勝者にはなんと一万円!準優勝には半分の五千円だ。ちなみに顧問のポケットマネーから出ているよ♪」 「一万円!?欲しい!やる!ぜってー優勝する!」 「秋山頑張れ♪今年は桐原いないから希望はあるぞ」  まさかの賞金付きの水泳大会に、かったるくて仕方なかったこの遠出も、一気に面白くなってきたぜ!  俺は空と同棲する為に金が必要だからな!きっちり一位獲って帰ってやるぜ!
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