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膝を貸してやる。先輩として当然だ
帰りのバスは俺と茜は一番後ろの席を取る事が出来て、俺は寝る気満々だった。が、全然快適なんかじゃなかった。
「秋山ー、ほら夕方の山もちょっとミステリアスでワクワクするだろー?」
窓の外を見て目を輝かせている茜。
「二之宮ってこういう森が好きなのー?何か似合うー♡」
その茜の隣を陣取ってる七海。
「貴哉♡家まで送ってやるからな♡」
真ん中に座る俺の右隣にピッタリくっ付く伊織。
「いやー、貴哉くんの泳ぎには感動したな!バッチリ動画に収めたからね♪帰ったら編集して部員全員に配ろう♪」
伊織の奥で勝手に俺の動画をばら撒こうとしている詩音。
「もーお前らうるさ過ぎぃ!寝れねーだろぉ!」
「秋山眠いのか?それなら俺の所へ来い」
「あ?何でだよ」
「膝を貸してやる。先輩として当然だ」
「さすが二之宮くん!後輩想いだね~。僕の膝でもいいんだよ貴哉くん♪」
「ちょ、秋山ぁ薗田さんの膝とかレアだぞ?借りとけばー?」
「あ、お前茜の膝取るつもりだろ?」
「何言ってんだ!アホー!」
「小平には貸さないぞ?タメだろお前は」
「ほらー!二之宮が本気にしちゃったぁ!」
「あーもぉ伊織でいいや!」
「!」
終わらない会話に疲れて俺は隣にいた伊織の肩にポンと頭を乗せる。膝は借りねぇけどな。
「わーい♡貴哉に選ばれたー♡」
「ほう、貴哉くんは二之宮くんじゃなくていーくんを選ぶのかぁ。やっぱり自分の部活の先輩の方が上かな」
「あ、そう言うんじゃないから。伊織は俺のパシリなだけ」
「パシリ!?」
「あー、秋山が前にそんな事言ってたな。桐原はパシリだって」
「お、お前らどんな関係なんだよ?」
「俺は普通に貴哉の彼氏だと思ってってけど?」
「自惚れんな!文化祭まではパシリだろー?」
「あのいーくんをこんな扱いするなんて!本当に貴哉くんは面白い!」
「なぁ伊織、着いたら起こして」
「おやすみ♡」
「ん」
伊織の肩にもたれたままウトウトしてるとチュッとキスをされた。もう普通にしてるけど、それを見た前に座る奴らの驚く声が聞こえて来た。うわ、バッチリ見られてんじゃん……
「ちょ、マジでキスしたよな今!」
「小平騒ぐな。秋山が眠れないだろ」
「それにしても貴哉くんは可愛い顔して眠るね。ちょっといーくんが羨ましいな。いーくん、そこの場所を僕に譲ってくれないかい?」
「薗田さんでもそれは出来ません。貴哉は俺のですから♡」
「それは残念だ。ところで貴哉くんには愛しの彼がいるそうだけど、そこは大丈夫なのかい?」
「はい。今は俺が彼氏なので♡」
「ってダメに決まってんだろー!お前居心地良すぎて普通にしてたけど、こういうところでするの辞めろ!」
遠のく意識の中聞こえて来た会話に突っ込まずにはいられなかった。そうだ、俺には空がいるんだ。もっとしっかりしなくちゃ……
あ、茜の肩だったらいいんじゃね?
「なぁ七海ぃ、席変わって?やっぱ茜の肩にするから」
「やーだー!てか変わったらいーくんに怒られるから無理!」
俺の後ろを見てブルブル震える七海。ちぇ、初めから茜の隣に座ってれば良かったなぁ。
「貴哉くん、僕の胸はどうだい?やましい気持ちも無いし、彼も許してくれるんじゃないかな?」
詩音が両腕を広げてニコニコ笑ってる。確かに、空も詩音の事知ってそうだし、手出して来なそうだしな。
俺は伊織を跨いで詩音の所に行こうとした。途中で伊織に捕まって両脇を掴まれてくすぐられた。
「あひゃひゃ!辞めろ!何してんだ伊織っ!」
「薗田さんの所に行かせねーよ?」
「惜しい。もう少しだったのに」
「惜しいじゃなくてもっと強引に来いよ詩音!伊織から俺を奪え!」
「うわぁ♪貴哉くん凄く良いよ!今のセリフ最高♡」
どこからか紙とペンを出してメモし始める詩音。くそ、所詮詩音はこの程度か。茜も伊織が相手じゃ笑って見てるだけだろうしな。
「貴哉」
もう一度席に戻って腕を組んで一人で寝ようと目を閉じると、伊織に名前を呼ばれた。目だけ開けて見てみると、満面の笑みの伊織がいた。
あ、やべ……ドキドキしてきた……
「な、何だよ?」
「楽しいな♪」
「は?」
「やっぱり貴哉とこうしてるの楽しいよ」
「そうかよ」
俺はそっと右手を伊織の腕に伸ばして握ると、気付いた伊織が手を繋いでくれた。
指を絡めながら俺達は笑い合った。
そして俺はバスが目的地に到着するまで伊織の横で眠った。
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