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早川とは別れねぇの?
バスが目的地の学校に到着してそこで解散になる。寝てた俺は伊織に連れられて外に出た。あ、バスの爺さんに挨拶は忘れなかったぜ!
先に外に出ていた茜に呼ばれたから行こうとすると伊織に止められた。振り向くと、夕陽に照らされた伊織の顔が優しく微笑んでいた。
「あ……茜に挨拶してくる。ちょっと待ってろよ」
「行ってらっしゃい」
普通に茜と帰ろうとしていたのに、伊織の顔を見たらそう言ってしまった。
茜と、帽子を被った七海もいて、俺は二人に近付いた。
「よう、俺伊織と帰るからさ、茜一人で帰れるか?」
「そうだろうと思ったよ。大丈夫だよ。桐原にもよろしく言ってくれ」
「って俺の事忘れてるだろ!?まったく!浮気もほどほどにしとけよなー」
「一緒に帰るだけだ。浮気じゃねぇ。じゃあなお二人さん」
歩き出す二人を見送ってから伊織の所へ戻る。
すると手を出されて自然と手を繋いで歩いた。
「帰ろう貴哉」
「おう」
俺は一体どうしたいんだ?あのまま茜と帰ってた方が良かったんじゃないのか?
こんな風に伊織と手なんか繋いだら、また空への罪悪感とかでモヤモヤするんじゃないのか?
歩きながら伊織の手を強く握ると優しく笑ってくれた。
「どうした?」
「やっぱりこういうの良くないなって……」
「でも貴哉は嫌じゃないんだろ?」
「……うん」
学校の近くのバス停には他にも演劇部の生徒達がいたので俺と伊織は次のバス停まで歩く事にした。どうやら伊織は本当に俺を家まで送って行ってくれるらしい。
「なぁ、早川とは別れねぇの?」
「え……」
「好きなんだな。早川が」
そう聞く伊織の顔はいつもと変わらない笑顔だった。
そりゃ空の事は好きだ。何か嫌な事をしてくる訳でもなく、それこそ俺みたいに他の奴らとこういう事してる訳じゃねぇ。むしろ俺の事を本当に大切にしてくれてると思う。
「好きだ」
「だったら許可取ればいいんじゃね?」
「許可?何言ってるんだよ」
「早川に黙ってこういうのするのが嫌なら早川に言っちゃえばいいんだよ」
「ちょ、お前何考えて……」
慣れた手つきでポケットからスマホを出して誰かに電話をする仕草を見せる伊織。おい、まさか空に掛けてるんじゃないだろうな?
一体何を言うっていうんだ?
「伊織!辞めろ!」
「大丈夫♪」
シッと人差し指を唇の前に立ててウインクしながら言う伊織。
そして空が出たのか話始めた。
確か空は今日は兄貴の店の手伝いしてる筈だけど……
「あ、もしもーし?早川ぁ?今へーき?」
「…………」
俺は伊織の隣でソワソワして様子を見ていた。伊織の声しか聞こえないからそれを聞いて何を話してるのか察するしかない。
「実はさ、今学校到着して帰るとこなんだけど、昼間貴哉が二年にいじめられちゃってさぁ……あ、大丈夫大丈夫。みんなで助けたから」
あの三人からされた事をいじめにして、更にみんなで助けた事にしてくれたのか。それなら空も心配はしても伊織を疑わないか……
「でさぁ、心配だから俺が家まで送ろうと思ってんだけど、いい?彼氏の許可欲しいんだよねー……あー?しねぇよ。てかお前すぐ来れんの?なら待つけど……うん。分かった。じゃあそうする」
「……?」
伊織はいつものように話して、そしてスマホを俺に渡そうとした。
「早川が貴哉に代われって」
「あ、ああ……もしもし?」
言われた通り通話中のスマホを受け取って声を掛けると、すぐに空の声が聞こえて来た。
いつものあの空だった。
『貴哉!いじめられたって何!?大丈夫なのか!?』
「おう。少し傷出来ちまったけど、平気。俺を誰だと思ってんだ」
『もー、貴哉は敵を作り過ぎなんだよぉ。俺すぐに行けないけど、切り上げて貴哉んち向かうからさ……嫌だけど!すごーく嫌だけど!それまでは桐原さんに任せる事にする!』
「来てくれるのか?」
『当たり前だろー!桐原さんに何かされそうになったら叫んで逃げろよ!じゃあまたな!』
一方的に喋って電話を切る空。すげぇ慌ててる感じだったけど、俺と伊織の事が心配なんだろ。
でも、いつもの空みたいで少しホッとした。
スマホを返して伊織を見ると、ニコッと笑っていた。
「さぁ彼氏の許可も取ったし、帰ろうぜー♪」
「お前はほんと……」
「堂々と一緒に歩けるなんて最高ー♡」
本当に何でもやっちゃうんだな伊織は。
両腕を広げて喜ぶ伊織を見て俺はまたときめいていた。
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