1人が本棚に入れています
本棚に追加
福原さんが行く先々の明かりを消しまわっているので薄暗い校舎。それを咎める人は誰も居ない。わたしと福原さんの二人きり。
といっても、まだ部活動の練習はしているらしく、運動部の掛け声や吹奏楽部の調子の外れた楽器の音は聞こえてくる。
それに、二人きりというのも正しいのかわからない。さっきから、窓の外から興味津々にこちらを覗いている子供が二人いる。ここ三階なのに。幽霊の見えない福原さんからすれば、二人きりに見えているだろう。
「何にもないねえ」
福原さんが残念そうに零す。
「そうですねえ」
わたしは見ないふりをした。
七不思議の検証は別段変わりなく進んでいた。
わたしはこれまで七不思議なんて興味もないし、知らなかったけど、トイレの花子さんだとか、動く人体模型だとか、どうやら小学校にありがちなものとそう変わりはないらしい。
トイレでは白いシャツに赤いスカートという花子さんチックな格好の小さな女の子から「何して遊ぶ?」と手を握られ、生物講義室では人体模型からは何のつもりなのか、自分の心臓を手渡された。
怪異に遭遇する度に、わたしは恐怖で汗をダラダラとかきながらも、全身にぎゅうっと力を込めて叫ぶのを我慢した。バクバクと忙しく鼓動するのを隠しつつ、冷静を装って「何も見えないですねえ」と嘘をついた。
幽霊の見えない福原さんに、何も無いところで奇行をする変な子だと見られないために。
七不思議の検証に協力するとは言った。頼られて嬉しかったのも本当。でも、せっかく親しくなれるかもしれないのに変な子だと嫌われたくもないから。
それに、もし幽霊が出たなんて記事を見て、興味本位で幽霊に近づいた誰かが危ない目に合うのも居た堪れないし。
だから、福原さんが何も気づかないなら、わたしも見てないふりをすることにした。
六つの検証を終えたわたしたちは、最後の怪異のあるスポットらしい特別教室棟四階の物理講義室に来た。
もうとっくに日は沈んでいて、明かりを消してしまうと福原さんの表情も陰って見えなくなってしまう。部活をしていた子たちも帰ったのか、あたりからはさわさわという風の音と虫の声だけが小さく聞こえる。そろそろ帰らないと、先生に見つかったら怒られるかも。
「ここにはどんな噂があるの?」
わたしが尋ねる。あたりを見回すけど、これまでの噂の場所と違って、ここは何も見当たらない。
「ここには交通事故で亡くなった女子の幽霊が出るの」
こちらに向かず、福原さんが言う。夜の闇のような澄んだ声だった。
「その子は、昔この学校に通っていた二年生で新聞部だった。ある日交通事故で亡くなっちゃったんだけど、一人で行くのは寂しいからって成仏もせずに友達の居るこの学校に残ることにしたの」
「……」
最初のコメントを投稿しよう!