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「でも、その友達は幽霊なんて見えないからその子に気づかないし、そのまま、卒業したらその子を思い出してもくれやしない。そうして、その子は誰にも気づかれないまま、寂しい寂しいって、学校に今も残ってる。ずっと、自分に気づいてくれる人を待ちながら」  これまでの噂はトイレの花子さんだとか、動く人体模型だとか小学校でもありきたりで荒唐無稽なものだったのに、最後の噂だけは妙に設定が凝ってるなと思いつつ、わたしは黙って聞いていた。 「で、この教室が今は無き新聞部があった場所」  福原さんがくるりと振り向いて嬉しそうな顔をした。  え? 今は無き? でも、福原さんは新聞部で……? 「ね、綾美ちゃんはずっと一緒にいてくれるよね?」  弾むような声で言う福原さんに、ぎゅっと手を掴まれる。瞬間、わたしの全身がゾワゾワと粟立ち、嫌な感覚が身体中に充満した。  あ、これだめなやつ……。  バッと福原さんの手を振り払い、わたしは教室の入口へと逃げ出す。しかし、鍵を閉めてはいないはずなのに、教室の戸はどれだけ力を込めてもガタガタ揺れるだけで開いてくれない。 「どうして逃げるの? さっきまで仲良く出来てたのに」  逃げ場がないと知っているからか、福原さんは焦る様子もなくゆっくりと歩いてこちらに近づいてくる。 「ヤダっ、その、わたし……」  舌が絡まったように、うまく言葉が出てくれない。恐怖と困惑でぐちゃぐちゃになった頭で、何も考えられず、ただ福原さんから距離を取って教室中をぐるぐる走り回る。  しかし、何の考えなしに動いていたため、すぐに窓際に追い詰められて、自分がぶつかって動かしてしまった机で身動きが出来なくなってしまった。 「あは、逃げられなくなっちゃったねえ」  口角をこれでもかと上げながら、福原さんはにじり寄ってくる。ジリジリと後退り、窓際の壁にぶつかる。窓はあるけど、ここは四階。アスファルトの地面は遠くて、落ちると痛いでは済まなさそう。 「あっ、あのっ、わた、福、原さ……」 「どうしたの? 大丈夫だよ。私はもう死んでるから、ずっと一緒に居られるよ。どこかに行ったりなんかしない」  なんとか説得できる言葉を絞り出そうとするが恐怖で言葉になってくれない。それに、たとえ言葉になったとしても、今の興奮しきった福原さんには伝わらないだろう。
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