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「そうだ、綾美ちゃんも死んだら、どこかに行ったりなんか出来ない。ずっと、一緒に居られる。そうだ、そうだ。うふ、うふふふ……」 「いや、うぐ、や、だ、ひぐっ……」  涙が溢れ出して、嗚咽で息が苦しくなる。  福原さんはもう手の届く距離まで来ている。  もう嫌だ。せっかく、仲良くなれるかもと思ったのに。どうしてわたしばっかりこんな目に遭うの。幽霊なんて見えるから。どうしてわたしだけ一人なの。誰も助けてくれない。幽霊なんて、幽霊なんて大嫌い。 「たす、助け、たすけ、て、悠希……」 「伏せて!」  叫び声の言われるままに、わたしはバッと身を低くして丸くなった。瞬間、勢いよく教室の戸を開けて飛び込んできた悠希が一切ブレーキを掛けることもせず、その勢いのまま福原さんに飛び蹴りした。  突然の奇襲に反応できず、福原さんは間抜けな顔で窓の外まで吹き飛んでいく。  そして、悠希もまた窓の外へ。 「悠希っ」  窓に飛びつき、悠希の姿を探す。 「あはは、失敗失敗」  悠希は窓の桟に捕まり、どうにか落ちるのを耐えていた。いつもと違う引きつった笑顔が、その状況の深刻さを物語っている。 「だ、大丈夫っ? 悠希っ」  悠希の手を掴んでなんとか引き上げようとするが、わたしなんかの力ではどうにもにもならない。いつの間にか、涙なんて吹き飛んでしまった。 「い、いけそう?」 「いけそうじゃないけど、頑張るっ」  だって、悠希はわたしの唯一の友達だから。いつも助けられてばかりだから。こんな時くらいは返さないと。 「ねえ、綾美」 「なにっ?」  必死に引き上げようとするわたしに反して、悠希の声はとても冷静だった。 「これからも、幽霊嫌い?」 「こんな時に何言ってるのっ?」  自分が四階から落ちるか落ちないかの瀬戸際だってのに、この子は何を言いだしたんだ。意味がわからない。 「こんな時だから聞いてるの。ね、答えて」 「……嫌いだよっ」  腕に力を込めるだけでいっぱいいっぱい。言葉を選んでいる余裕は無くて、頭の中に浮かんだ言葉をそのまま吐き出す。 「驚かしてくるし、怖いし、いつも迷惑ばっかりかけられてばっかり。大っ嫌い!」 「怖くなくて、迷惑かけ無い幽霊なら好きなの?」  頭に血が上って沸騰しそうで、もう何も考えられない。 「好きだよ! それなら大好き!」 「そっか。じゃあ、私はOKだ」  弾むような声で悠希が言うと、ふっと腕の先から重みが消えた。不意のことだったので、わたしは思わず尻餅をついてしまう。痛い。  悠希はふわりと浮き上がると、窓から入ってきて、床に着地するとともに両手でピースサインをビシッと決めた。すっごい笑顔で。 「えええぇぇぇ!?」  今日一番のわたしの絶叫が校舎中に響いた。
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