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『高軌道要塞ベルグランダ』
公共の電波に謎の文字。黒いバックに白抜きの明朝体。
忽然とその文字がテレビに映し出されていた。
どうやら、テレビ局のコンピュータが乗っ取られたらしい。
数時間後、何事も無かったかのように、その文字は消えた。
実は政府が極秘で建設中の要塞が宇宙空間にある。
のかもしれないし、
新作アニメの情報のリークなのかもしれない。
謎が謎を呼び、SNS上にはその時にキャプチャされた画像が乱れ飛んだ。
それは国会でも取り上げられた。
「もし、これと同じような事が、もっと重大な個人情報や機密情報で起きたら、国民の健全な生活、安全安心はどうなるのか?」
時の首相が声高らかに問う。
数日が経過して、テレビ局の偉い人がニュース番組の中で謝罪する。
「これは、過去に没になって、お蔵入りした企画なのですが、お蔵入りした時にコンテンツは廃棄するルールなのですが、何故か表に出てしまいました。再発防止策は委員会を立ち上げて検討中です。」
そして、誰の頭の中からも忘れ去られた時、突如その番組はYoutubeで開始された。
アニメ大好きなユーチューバーが、『高軌道要塞ベルグランダ』というキーワードだけから、勝手に連想して、新しいアニメを生み出したのだ。
内容的には、ガンダムとマクロスと何かの戦隊ものや昭和のヒーローものを、ごちゃまぜに合体させて玉串色にした感じの、微妙なバランス感覚。
しかし、それがヲタク界隈でうけた。
Youtubeは数億再生となり社会現象にまでなった。
そうとなると、黙っていないのが原作の生みの親である。
我が子を取られたとでも言うかのがごとく、記者会見で切々と利益の損害について語り、著作権を放棄していないのだから、利益は全部自分のところにあると主張。
そしてついには裁判に突入した。長い法廷闘争の幕が明けたかに見えた。
しかし、著作権フリーではない事が明るみに出たので、二次創作三次創作のオンパレードだった『高軌道要塞ベルグランダ』ブームはそこで急速に冷え込み、時代の彼方に忘れ去れる事になった。結局作者は訴えを取り下げる形になった。
そしてある日事件が起きた。
自分が騒いだ事で結果的に利益の芽をつぶす事になった為、やりきれなくなったのだろう、白昼堂々、人ゴミの集う繁華街にて、乗用車で赤信号を猛スピードで逆走し、人を数人跳ねて、路肩の電柱に激突した。
そして、血まみれで煙のあがる車の中から出て来たかと思うと、日本刀を振り回す。数名を切りつける。
あたりは血の海になった。
悲鳴と怒号。逃げ惑う人々。
ようやく警官が集まってきて、最後は警官に取り押さえられる。
「俺が書いたんだー!あれは、俺がーー!!!」
最後まで原作者はこのように叫び続けた。
その後の取り調べて、テレビ局に違法にアクセスしたのは、なんと原作者本人である事が、本人の口から語られた事で事態が急展開した。
『高軌道要塞ベルグランダ』の代わりに放映された『きゃぴきゃぴマオン☆』が急に放送打ち切りとなる。理由は”諸般の都合"との事だったが、因果関係はネット上でかなり有名な話題となった。
そして『きゃぴきゃぴマオン☆』のファンがブチ切れた。毎日そのテレビ局のSNSは、批判的なコメントが山のように書かれ、テレビ局のSNSは閉鎖に追い込まれる。
事態の収拾を図り、テレビ局のお偉いさんが数名、謝罪と辞任する。
『高軌道要塞ベルグランダ』の原作者はその後の裁判で、死刑判決となる。
『高軌道要塞ベルグランダ』をモチーフに大金を稼いだユーチューバーは、全額被害者へ寄付を申し出る。
ここまで来てようやく事態は沈静化する形となった。
この騒動は、著作権をめぐる大パニックとして、令和の歴史に刻み込まれる事となった。
(終わり)
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