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 あのとき立ち上がれたのはきっと、武器を持っていたからだ。瀬戸に馬乗りになろうとしていた相手に、無我夢中で体当たりをした。しかし、びくともしなかった。 「邪魔すんな!」  突き飛ばされて尻餅をついた。すかさずニキビ面の男子が覆い被さってくる。僕は彼の右腕を見て、瞳に力を込めた。 「うわっ!」  悲鳴を上げて懸命に右腕をさする彼の姿に視線が集まった。その隙に、僕は長身の男子に向かってもう一度ぶつかっていった。ただし今度は、ドライアイスでも押し当てるかのように、凍てつく空気をまといながら。  言葉にならない声を出して飛び退いた彼は、一瞬だけ僕をにらんだ。しかし目が合ってすぐに顔を青くすると、言葉にならない悲鳴をあげながら階段を駆け降りていった。他の3人も、慌ててそれに続いた。 「樋上……? お前、何した?」  上体を起こし、地べたに胡坐をかいた格好になった瀬戸に、僕は手のひらを開いてみせた。 「今日1000円ガチャで引いた、電気が流れるおもちゃ。これを押し付けたんだ」  少し間があってから、瀬戸は一言、「そうか」とだけつぶやいた。
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