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由宇 大学生編 「そんなことくらい」
強気受け/自慰/年の差
※ ※ ※
「そんなことくらい、俺できるよ」
由宇が茶色の大きな瞳で、真っ直ぐに類を睨みつけてきた。
負けん気が強くて可愛い。
類より一回りも歳下で、身長も腕力も勝てない癖に。
「そんなことくらい、別に平気」
重ねて言いつつも段々と不安そうになっていく瞳の奥。きゅっと噛みしめたくちびる。全然そんなことなんて思ってない癖に。
由宇は大学生になったが、まだひとりでできないらしい。
類は、将来、由宇が困ることになりはしないかと気にしている。
でも、類の妹──唯とはしているようだ。少し歪な気もするが、それならそれで、と放っておいたけれど。
ちょうど良い。自分でできると宣言したのだから、やらせてみよう。
強がって口にしただけだろうが良い機会だ。
※ ※ ※
先月、リビングで由宇を揶揄ったら結果的に物が壊れたので、今日は用心してベッドに並んで座ることにした。
類の寝室は殺風景で物が少ない。
「──どうぞ?」
類が促した。
由宇は躰を強張らせていて、隣にいるだけで緊張しているのが伝わってくる。大したことじゃないだろうに可愛らしいことだ。
「無理なら無理で別に──」
「できるってば!」
ぱっと顔をあげて類を見た表情は泣きそうなのに。
後に引けないでいる。
「できるけど、こんな明るいのいやだ」
「はいはい」と類がちらっと笑って常夜灯にしてやった。
室内がオレンジ色に照らされる。
類が由宇の様子を気にしながら切り出した。
「そもそも上半身すら見られるのいやがるよね。何で? 着替えるとき何時も隠すし。俺でもいやなの。同性だし付き合い長いのに」
「何でって──なんか、不安な気持ちになるし」
ついでに上を脱がせて反応を確認しようと由宇のシャツに手をかける。
「だめっ、やだってば!」
高い悲鳴のような声をあげて、どうしても裾を握って離さない。
「俺しか見てないし。薄暗いし。大丈夫だから──」
「いや、やなの、やっ、ぁ」
抵抗する指を力で宥めて、身長差で由宇が届かない位置まで奪ったシャツを掲げる。
「類の馬鹿っ! 返してよ」
由宇が片手で胸元を押さえてもう片手を伸ばすけれど届かない。
観念したように顔を真っ赤にして背け、両腕で肩を抱くようにする。
「もぅ、返してよ、上は、関係ないじゃん、酷いよ──」
涙を瞳いっぱいに溜めて、くちびるを噛みしめている。可愛いけれど、男なのに半裸でこんなになるのも心配だ。
見ると、耳朶まで赤くなってきて瞳が潤んでいる。
これだと不安というよりは別の反応のように思えるのだけれど。
「──見られると感じちゃうの? それが恥ずかしい? 俺しかいないけど。俺相手でも恥ずかしいの」
「変なこと言わないでよ!」
ばしん。
枕を思いきり顔に向かって投げつけられ腕で受けとめた。
だから物が壊れるんだって。
感じるとか、恥ずかしいとか、単語自体がもう駄目なのか。
何か性的なものに抵抗がある──のだろう。でも唯とはできている。よく解らない。
これで、ひとりではとても無理そうだ。
類はシャツを由宇に返しながら「自分でするのと、俺が代わりにしてあげるのと、どっちが不安が少ない?」と訊いた。
「え」
由宇は大きな瞳を丸くして固まった。
真っ赤な顔が可愛い。
「どっち?」
類が返事を促す。
由宇は、動揺しながらも躰は隠したかったらしくシャツをぎこちなく羽織った。
俯いたままか弱い声で訊き返す。
「──途中でやっぱり駄目ってなったら、やめてくれる?」
「いいよ。無理しない範囲で」
「無理してない!」
だから、全然無理してない顔じゃないのだけど、まだ言うか。
類はその思いを口にはださずに承諾する。
「わかったわかった」
躰を少し持ち上げて、下着ごと引っ張ると「あ、待って」と逃げる。「無理してないんでしょ」と執りなすと黙って脱がされた。
胡座をかいた上に由宇を同じ向きで座らせ、後ろから片手を伸ばす。
実際となるべく同じような角度で本人に見せたかった。
由宇の細い陰茎をそっと摘む。
薄い色合いにまだ未成熟な印象がある。
「ぁ、やっぱり、だめ、ぃや、待って」
焦って制止しようと由宇の指先が伸びてきたので、一緒に触れないかと誘導してみるが逃げられた。
そのまま、どこかを掴むような仕草をするので、片腕を貸したら両手でしがみついてくる。
「待って、こわい──」
まるで溺れている人間のよう。
「大丈夫だから。落ち着いて」
摘んでいる手を、口頭で説明しながらゆっくり上下に動かしてみせる。
「ぁ、や、待って。ん、やだ、やだってば!」
由宇が小さい悲鳴をあげる。
腰を引いて逃げようと暴れるが真後ろに類がいるので逃げ場がない。
「ぅ、んんっ、いゃ、やだ、いやっ──」
「触られてるのがいや? くすぐったくていや? 気持ち悪い? どういやなの」
目をぎゅっと瞑って類にしがみつきながら耐えている。応えられそうにないので一旦手をとめると安堵して息を吐いた。
「ん──勝手に、なんか、声とか、躰、動くの、いや」
赤くなったままの顔を向けて訴える。
「え、待って。それって──前提として、俺と一緒にいるの、いやじゃないよな?」
「一緒にいるのはいいけど、躰を見られたり触られたりするのはいやだよ」
由宇は、声を低めて類を睨みつける。
まだ目尻に涙がうっすら残っている。
「唯は?」
「唯にも見られるのはいやだから暗くしてるし、そもそも唯から触ってきたりしないよ」
「──でも、お前、唯のこと触ってるよね」
「──うん」
「触るのはよくて、触られるのはいやなの」
「あれ──うん、そう、なっちゃってる。ちょっと、んっ、手、もぅ、とめて、いゃ」
考えながら無意識に指先が動いていたようだ。
軽く触っているだけだし抗議は無視した。
反応も見ておきたいし。
「なんか、それ、コミュニケーション変な気が──そんなことないか。男で、相手がおとなしい女ならそれでもいけるか」
類は喋りながら考えをまとめ、由宇の様子も観察した。
顔を赤くしながら躰をよじっている。
「んっ、もぅ、やぁだ、ゃ──」
舌足らずな甘えた高い声。
いやなのだろうけど。
「あのさ」
これを言ったらいやがるだろうなとは思ったけど。
「視線で感じちゃうから見せたくないし、ちょっと触られても反応しちゃうから、それを他人に知られたくないんじゃないの」
「んっ、きもち悪いん、だって、ゃ、感じるのって、きもち、良いんでしょ──ちが、ぅ」
でも、火照って赤くなる肌も、躰を左右によじる動きも、潤んだ瞳も、経験則的には感じてる手応えなのに。
少しでも指を動かすと過剰に反応して手足をばたつかせる。
「んんっ、もぅ、いゃ、だめっ、ゃ──」
あまり無理をさせてもまずいので手を離してやった。
それでもまだ不安そうに、類の腕にしがみついたままでいる。
「本人の受け取り方が歪んでそう。感じてるよ。それはこっちで解る。ただ、お前はその感覚を気持ち悪いと認識しているのかも」
「──わかん、ない」
「潔癖で抵抗があるとか。慣れてなくて怖いとか」
「解らないよ」
「ときどき慣らしてみるか」
「何。やだ」
「慣れたらなんてことないよ。皆やってることなんだし。過剰に反応しなくなる。なんだ、こんなものかって思えるよ」
「──ほんと?」
前向きだ。本人もできないことを気にはしているのだろう。
「こんなだと急には無理だろうから。とりあえず、自分で上下にちょっとでいいから動かしてみて。さっき見てたでしょ。あと、俺に躰を一通り触らせて。とにかく慣れよう」
「それくらいなら──」
おそるおそる由宇の細い指が陰茎に触れる。とりあえず掴めてはいる。
「触れるじゃん」
「うん──これくらいなら。シャワーのときとかも。きもち、悪いけど」
由宇を見ると全身に鳥肌を立てている。
こいつの躰の構造どうなってるんだ。
「それは、ええと、触ってる手が気持ち悪いの? 触られてるところが気持ち悪いの?」
あまり露骨な言葉にならないよう気をつかう。
「どっちも違和感ある」
由宇の返答が、類には全く理解できなくて頭を抱えた。
由宇は長い間逡巡したあと、ゆっくり掴んだ手を下に移動させている。
「んっ──ぁ、むり」
それだけで額に玉のような汗が浮かんでいる。
「お前、唯に挿れてるんだろ。どうしてんの」
「ちょっとずつ。でも、挿れないこともあるよ」
「なんで?」
「唯、疲れちゃったりするから」
「それは──病人だからな。それで良いの?」
「良いよ」
あまり、挿れたりイくことに興味がないのだろうか。
「唯に挿れたら声でるの」
「ださないよ!」
「主導権握ってるほうが楽は楽だからな。自分で動くぶんには想定内だし声でないんだろ──だから今もさっき俺がやろうとしたときより楽なはずだよ」
「ええと、でも、なんかもう、むり」
「とりあえず、一旦、がんばれ」
「うん──んっ、ぁ、ん──」
返事は良いけど。
何で自分で触って声でるかな。
「だからさ、人間、自分で自分をくすぐったって笑えないんだよ。予想できる刺激は楽なの。怖がるから過剰になってるって」
「んっ、だって、むりっ、ゃ、ん」
とてもゆっくり時間をかけて怖々手を動かす。指先が震えている。呼吸音に吐息が混ざる。
「ん──んっ、ゃ──」
こいつ、こんな甘ったるい声になるのか。
いやなのに──ちょっとした刺激で自動的に躰が感じた反応をしてしまう。
性的なものに抵抗あるならそれは──怖い、のだろう。
上に戻る途中で手が止まった。
「んぅ、むり──」
由宇は進むも退くもできなくなって涙目で「だめ」と類を見た。健気で可愛いのだけれど先が思いやられる。
これ以上させても苦手意識を悪化させるだけだろう。
「いいよ、おいで。後、俺が躰を触って終わりにしよ」
シャツ一枚の由宇を横抱きにして、指先から簡単に触れていく。
指の付け根、脇など躰が分かれる部分の刺激にびくびく反応する。
「ん、ゃ、んんっ」
なるべく感じさせないように気をつかっているのだけれど。
由宇が、そもそも感じやすいのか、慣れない不安から過敏になってしまっているのか、今日のところは判断がつかない。
「大丈夫、大丈夫。軽く触れてるだけだから」
「ぁ、いゃ、んん──」
はじめて他人にあちこち撫でられて恥ずかしそうに躰をよじる。
由宇の可愛らしい反応につい、弱いところを揶揄いたくなるが自重する。
「触れられても大丈夫」と安心できるように学習してほしい。
白かった肌が指先に呼応して桜色に染まる。
透明で瑞々しい。
汗を弾いて痕さえつかない。
──ふと、かつて自分の躰で遊んだ大人たちも同じような気持ちで自分の肌を見ていたのだろうかと遠くを思った。
わざと少し指を立てて弄ると遊ばれていることがわかったらしい。
「ん、ゃ──もぅ、類っ! 俺、いっぱいいっぱいなんだからね!」
涙目で睨まれたので髪を撫でて機嫌をとった。
一生懸命に慣れようとしているのが可愛い。
かなり緩い刺激にしないと、だめだめ、と首を振る。本人なりに許容量があるのだろう。
「半分終わり」
ほっとしたようだ。
躰の力が抜けたのが解る。
足の指から同じように触れていこうとして気づいた。由宇の陰茎が勃ちあがっていて。しかも。
──濡れてる。
シーツの周囲に染みができている。
たったあれだけの刺激でこんなになるのか。ここまで反応してしまうなら確かに本人もしんどいだろう。
さっき直接触っていたときはこうはならなかったのに。
判断がむずかしい。
なるべく落ち着いた声を心がけた。
「この刺激のままだとだせないだろうから、だせるように触るけど、少し我慢して」
由宇の瞳が不安そうに動く。
「いらない」
「え」
「そこに触らないで」
「だって──このままはつらくない?」
「平気。唯とも、このままで終えたりするし、放っておいて。俺は別につらくない」
感じること以上に、だすことにも抵抗があるのかもしれない。
こいつの中でどういう風に認識されているのだろう。
──不潔なことなのか。嫌悪感があるのか。それとも罪悪感が──答えが解らない。
「俺は、お前が、苦手なことが多くて将来困らないか心配しているよ」
「俺、おかしい?」
傷ついた顔をされて失敗したと思った。
「おかしい、というわけではないけど、個人差もあるし──ちょっと成長が遅めかなって」
「類が、俺ができたほうが安心ならそうするよ。別にいいよ。大丈夫」
心配かけまいと気丈に振舞うのがいじらしい。
肩を軽く押すところんとベッドに横になる。
ゆっくり陰茎を包むように手を添えると、由宇の手が遮ろうと伸びてくる。
「ぁ、だめっ、ん──」
「俺の服、掴んでて良いよ。ぐしゃぐしゃにしてもいいから」
ぎゅうと思ったより強い力で胸元が引っ張られた。
そっと摘んで優しく擦る。
「んっ、ぁ、やだ、ぁ──」
不快なのか怖いのか。
輪郭にそって緩く撫でると声が甘くなった。
「ゃ、んっ」
──なんだ、こいつ、これくらいの刺激で十分なんだ。
「ぁ、んっ、ゃ、ぁ──」
いやとか駄目とか言わないし、これくらいなら許容できるのか。
抱いている腰が揺れる。
おそらく無意識に動いている。
「ん、ゃ、んっ、ぁ──」
甘ったるい声。これで気持ち悪いとは言わせない。
由宇の好む緩さでは到底だせないだろうから、少しずつ刺激を足して誘導する。
「ぁ、やだっ、んっ、ぁ、だめっ、んん──」
「大丈夫、じょうずだよ」
実際には、躰の使い方はかなりへただったが、あやすつもりでそう言った。
腰を引こうとするし、全身が変に強張っている。
本人は苦手なんだろう刺激をなんとか受けとめようとしているのは見てとれる。
でも、汗が大量にでるだけで上手くいっていない。
類にはだいたい見当がついている。
外側からの物理的刺激に全てを頼っている。
本人は外から誘発されて感じてはいるのだけれど、精神的に興奮はしていない。
片輪が足りない。
緊張もあるのだろう。
苦手意識も邪魔をしているのかもしれない。
仕方なく類は由宇の耳元で「くすぐられたら、感じちゃう?」と小声で囁いて、上下の動きを柔らかくして、先端の小さな尿道口をくすぐるようにした。
反応は早くて「え、ゃ、やめてっ、だめっ──」と由宇が焦って両手で抑えようとした。
けれど、間に合わずに痙攣しながらどくどくと白濁液が溢れた。
「えらい、えらい」
イこうとするから余計むずかしくなる。逆に仕向ければ良い。
褒めてやると由宇は赤くなっている顔を両手で覆った。
肩を上下させながら、とん、と半身を類の胸に預ける。
イきたい、ヤりたい、興奮する、そういう感情が育っていない。単に成長が遅いだけだろうか。
──それとも。
「上手だね。後ろもできる?」
「うん」
「え」
「できるよ!」
まさか頷くとは思わなかった。
意味わかってんのか。
乱れた茶色の髪。濡れた大きな瞳が、すぐ近くから類を射抜く。
負けん気が強くて。類ができることを自分もできなといやなのだ。
負けたら。
唯を取られると思っている。
※ ※ ※
夜に。
類はベランダに出て秋風を受けながら、透哉の声を携帯越しに聞いている。
〈虐待じゃん〉
「だって、唯とはできるのに、ひとりで無理って変だろ」
〈別にひとりで一生できなくたって死なないよ〉
それは、そう。
でも、なんだか心配になる。
〈唯ちゃんとは、温かいとか柔らかいとかそういう気持ちよさが上回っているんじゃないかな。やっぱり、昔に何か──されていたりするかもね。記憶はないけど拒否感だけ残ってる、とか〉
「今更、九歳以前のことなんて解らないし。本人も覚えてないなら、もう──」
できることはしてやりたいけれど。
「躰を一通り確認したけど疵痕はないな。妙な反応もない」
〈どっちさせたの〉
「無理無理。ちょっと指入れただけ」
〈今回だと、類は適当に相手してやったくらいでしょ。本気で性的な目で見られたら、由宇は怖がると思う〉
「何が怖いかな。慣れだと思うけど」
〈お前は奔放すぎるから、そこを基準に考えるなよ〉
「普通に心配なんだけど」
〈お前、過保護というか──庇護欲あるよね、昔から。さらに嗜虐心もあるからややこしいんだよ。倫理観や羞恥心はおかしいし〉
「そんなことねぇって」
類が反論する。
〈人前で、ひとりでさせることを大したことじゃないって思ってるでしょ〉
思ってるよ──と、類は不服そうに呟いた。
了
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