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類 社会人編「許さなくていいよ」
不憫受け/幼馴染み/セフレ
※ ※ ※
正直こっちもいろいろ重なっていて。
余裕がなかった。
社員の不始末、吸収合併、年次決算等々。
そこに腰を痛めて立てない透哉の世話。
食事のついでに家にあったサプリメントとプロテインをまとめて与えたら文句を言う。
「なんだか鉄の味がする」
「それ鉄分のやつだから。何でも栄養摂っとけ、とりあえず」
透哉は綺麗な容姿を持っている。
髪も瞳も肌も色素が薄い。
不自由な躰で手を貸してやらないと立てもしない様子は球体関節人形のようだ。
ドールスタンドなしでは自立できない。
類は寝不足気味で。
苛々していて。
自制できなかった。
※ ※ ※
「あ゛ッ、ぁ」
透哉は、寝ているとき、いつも死んだように静かだ。
なのに今夜は細い腰を押さえながら悲痛な声で呻いている。
「女みたいに喘いで誘ってんの」
類が揶揄ったら、透哉は、しまった、という表情をした。
険しい顔つきで言い訳をする。
「馬鹿言わないで。姿勢を変えるの大変なんだから」
おそらく声が出たのは無意識だ。
腰の痛みに気をとられてうっかり漏れたのだろう。
「じゃあ動かなきゃ良いじゃん」
「同じ姿勢でずっといるのも痛むの!」
透哉は声を類に指摘されて不機嫌になっている。
変なところでプライドが高い。
定職につけ、女みたい、子供っぽい、は禁句だ。
半人前と扱われると機嫌が悪くなる。
もっとも、いくら綺麗でも今は類より身長があるので、さすがに女に間違われることはない。
余程、無用心な声を聞かれたのが不本意だったのか、シャツの端を噛んで自ら口を塞いだ。
腰を庇いながら上半身を起こし腕の力だけで体勢を変えようとしている。
「ン゛ッ──」
そのシャツを噛みながら喉を仰け反らせて悲鳴を堪えてる姿が、妙に色っぽく類の目には映った。
──あ、やばい。
嗜虐心が刺激される。
この姿をもっと見たい。
類は、透哉の躰に手を伸ばす。
うまく着れずにシャツを羽織っただけの上半身。
薄く筋肉はついているが──また痩せたように思う。
反った背中に触れると躰をよじって嫌がった。
いつもは見られない乱れかたをする。
「ンン゛──ッ」
遊び慣れているはずの透哉が過剰なほどの反応を返したので類は違和感を覚えた。
他にも胸やら脇やらに指先を這わせて──試して。
確信した。
「ン゛ンッ──」
透哉は首を振ってやめろと示しながら、躰はびくびくと跳ねている。
シャツが捲れて肩が片方露出した。
今、腰の痛みにあまりにも翻弄されていて、感覚を制御できていない──のだろう。
これが素の状態なのか。
脇腹をしつこく往復すると躰が震えた。
透哉が全身に力を入れて耐えているのが見てとれる。
色素の薄い顔が赤く染まる。
「ン゛──ッ」
普段は、類を騙している──感覚を意識的にオフにしているということなのだろう。
躰を仕事で使ったり利用したりする人間なら、感覚のオンオフくらいは操れるようになる。
苛められたり虐待されたりしても似たようなものだろう。
いちいち全部の刺激を受け取って反応していたら際限がない。躰がもたない。心ももたない。
透哉にとって自分は素で付き合える相手ではなかった、ということか。
ずっと。気にかけて。
大事に扱ってきたつもりだったぶん、類は裏切られたように感じて腹が立った。
透哉は腰に重心をかけないよう上半身を腕で支えている。
それを脇をくすぐって邪魔をした。
「ン゛──ッ、ン゛ン」
脇をぎゅっと閉めて崩れ落ちた透哉を許さずに、躰を力任せに引き起こし、両腕を片手でまとめて頭上に押しつける。
空いた手で腋窩を緩く刺激すると悶えて躰をくねらせた。
「ン゛、ゥ、ンッ──」
優しくくすぐってはいるが、自分は、今、冷たい視線で透哉を見ていると思う。腹立たしい気持ちをぶつけて。
「そんなにくすぐったいの。じたばたして子供みたいだな」
「──ッ、ン゛ン」
一瞬、手をとめると思いきり睨まれた。
無視して再び脇に触れた指先を動かすと目をぎゅっと瞑っていやだやめてと首を振る。
脇を閉じたくて手首を類の手から引き抜こうと懸命に暴れた。
類は透哉をいたぶっている自覚はあるが自分をとめられない。
──泣かせたらさすがにまずい。
そう頭の片隅で警告音が鳴ってはいる。
けれど嬲る手をとめられない。
脇から腰をなぞると透哉の背中が跳ねた。
「ン゛ン──ッ」
腕を頭上から動かせない躰はがら空きだ。
何処でもすき放題に弄れる。
今まで透哉がいやがることはしないできたけれど──。
綺麗な鎖骨の窪み。
薄い腹筋の形。
縦に割れた臍。
透哉は躰を左右に振りながら類の指先から逃れようとしている。ベッドがぎしぎし鳴る。
抵抗する透哉を力で押さえつけるなんてしたことはないし、今後もないと思っていた。
片手で自由を奪える。
腕力差は解っていたけれど。
しかも透哉は負傷している。
鼠蹊部のあたりに手がかかると足をばたつかせ激しく呻いた。
「ン゛ンッ──!」
もうやめろと言いたいのだろう。
何しろ立てないのだから逃げようがない。
腰さえ痛めてなければこの時点で透哉は家から逃げ出したに違いない。
──泣かせたらさすがにまずい。
類は、脳からの警告に逆らって腹立ちまぎれに嫌がった鼠蹊部を狙う。
透哉は目をきつく瞑って眉根を寄せシャツを噛み、躰をよじりながら耐えている。
「ン゛──ッ!」
わざと乳首を掠めてくすぐると、我慢の限界がきたらしく、透哉は、手首を拘束している類の手に思いきり爪を立てた。
本気の拒否に類の手がとまる。
ぎりぎりと透哉の爪が皮膚に食い込んでいく。
類が少し顔を顰めて透哉の両手首を放した。
透哉が自由になった腕で胸を庇うようにしながら、類を怒りに燃えた目つきで睨む。
シャツから口を離して怒鳴った。
「いい加減にして! 怪我人に何してんだよ!」
信じられないという表情をしていた。
軽蔑かもしれない。
類が冷たい声で言う。
「腰痛で死なねぇよ」
「まじで痛いから。巫山戯てるなら、本当にやめて」
「巫山戯てないよ。良い機会だと思って──子供のとき以来、甘ったるい声、聞かないな」
透哉の顔がぎくりと強張った。
視線を逸らす。
後ろめたい──のだろう。
「男ならそんなもんでしょ」
声が上擦っている。
見破られて動揺している。
「心を躰から切り離して。俺がどうこうするのは、災難のように耐えてやり過ごせばいい種類のことなの。客とヤってるときと一緒か」
「──違う! 一緒だなんて思ってない」
「今、抑制する余裕がないんだろ」
立つことができないので組み伏せるのは簡単だ。
「本当にやめて」
透哉の顔色が変わった。
「動くと痛いんだろ。動くなよ」
「やめてって言ったらやめる約束じゃん! うそつき!」
──約束なんて言われなくても覚えている。
はじめて、透哉がおそるおそる「やめて」と口にした声も。
「守ってたよ。ずっと。うそついて接してたのはお前のほうだろ」
腰から脇に這う類の指に、悲鳴をあげそうになった透哉は、再び涙目でシャツを噛んだ。
「それ。本人は、自分で声を抑えるより楽なのかもしれないけど、見てるとクるよ。誘ってる。苛めたくなる」
透哉の長い睫毛が震えている。
泣かせたい。
泣いた顔を見たい。
この感情は、親しいやつに打つけるべきものじゃない。
解ってはいるのだけど。
──泣かせたらさすがにまずい。
でも腹立たしいのもあって。
懲らしめたい。
苛めたい。
見たい。
もっと。
下着ごとスウェットを引き摺りおろす。
抵抗して、今度は腕に爪を立てられたが無視した。
拒否する仕草に煽られる。
──殴ればいいのに引っかいたりするから女みたいって思われるんだよ。
口にはださない。
脚の間を膝で割ると一層爪が腕に食い込んだ。
類は意に介せず指で透哉の陰茎を軽く摘む。
輪郭をゆっくり辿る。
「ン゛ンッ」
先端の尿道口を掠める度にびくりと透哉の躰が跳ねる。
程度の差はあれど弱い箇所はいつもと一緒のようだ。
類は、そこを狙って優しくゆっくり撫でた。
「ンンッ、──ゥ」
小さな穴をなるべく広げて指先で擦って弄る。
それをされると透哉の陰茎は可愛くひくひく痙攣した。
「ァ、ンッ、ン──」
体液が少しずつ零れている。
指先で陰茎に塗りつけて上下に扱くと透哉は顔を真っ赤にして歯を食いしばった。
「ンン゛──ゥ──」
必死に射精感に抗いながら、やめてと首を振る。
つま先が突っ張り太腿が震えている。
「イくのいやか」
類が訊くと、透哉は目に涙を溜めて頷いた。
──泣かせたらさすがにまずい。
頭の中の警告音に従ってかろうじて類は手を離す。
透哉は凄い剣幕で睨みつけてきた。殺意すら感じる。
「腹立ってるのは俺のほうなんだけどな」
言いながら、類は、透哉のシャツを口から奪って毛布と一緒にベッドの外へ投げた。
「やめて! 返して!」
声を抑える術をなくして叫ぶ透哉を抱き寄せ、わざと女のように扱った。
髪を触って、くちづけから首に移り、腰を抱きながら胸元を探る。
薄く色づいた乳首を指の腹で優しく撫でると、されていることの意味がわかったようだ。
透哉が目を見開いた。
──女じゃない。
そんな触れられかたは許せない。
いやがっている表情がわかりやすくて面白い。
「ぁあ──っ、いやだっ、やめて!」
透哉の嬌声を聞くのは久しぶりだ。
子供のときの面影がある甘い声。
乳首を緩く押し潰していると形が変わってきた。そのまま撫でまわすとびくびく腰が揺れる。
「ぁ、ゃ、やだっ──」
顔を見られたくないのだろう。類の首元に顔を埋めて隠れている。
尖った乳首を指先でひっかくように掠めると躰を左右に振って抵抗した。
「んっ、ゃめ、ぁ──」
透哉は切なそうな甘い声をあげ、類の指先から胸元を庇うようにうつ伏せになる。
──丁度良い。
類が、背中を抑えて後孔に指を這わすと、透哉の顔色が青くなった。
「いつも、下をやりたがらないのは、面倒だからって言ってたけど、本当?」
そこの周囲をほぐそうと暗喩するような指の動きに透哉の肌が粟立つ。「なに、を、ちょっと」焦る。
類のオイルを手にする気配に、透哉は本気なのかと震えあがった。この動けない状況で。
逃げられない。
「何、何で」
類は、もう解っているけれど一度ちゃんと訊いておきたいと思った。
「俺、感覚を切れるよ。お前もできるんだろ」
後孔にオイルを塗りながら軽くつついて脅す。
透哉の躰が竦んだ。
挿れられたくなかったら自白しろ、と恫喝されているようだ。
「──できる、よ、ンッ、やめて!」
「俺はお前とやるときは切ってないよ。他でも仕事とか義理でとか余程何かないと切らないよ。失礼じゃん」
類の指先がゆっくり侵入する。
浅い部分の襞を這い回る。
苦手な感覚に透哉の躰が強張った。
「ゃめ、やめて! ん、ぅぅ──」
「おまえは、俺とも切ってたわけだよな。だって、素なら、こうだもの」
指を入れたまま、前にも手をのばして陰茎の先端を撫でると、透哉の躰はびくりと大きく跳ねた。
「ぁあ、離して! んっ、ぁ──」
反応が制御できていない。
後孔から垂れたオイルを掬って会陰をなぞる。
「ゃっ、それ、やめっ! ぁっ、や──」
「知ってる──うそつかれたまま二十年なんとなく見過ごしてきちゃったけど、この先もずっとそうなら、もう俺はいや」
「──いく、とき、とかは、うそ、じゃな、かったし」
「そうだね。さすがにそこは。それくらいは偶に声出てたしな。何で? 声が恥ずかしいから? 感じてる様を見られるのがいやなの?」
「いや──だよ」
「そういうところも見せられる相手だからするんじゃないの?」
「あ、ぁっ──るいみたいに、あけすけ、じゃな、いんだよ」
類の指が蠢いて無言で脅迫する。
──本当のことをしゃべらないなら挿れようか。
「やめてってば! お──女、ぽくて、いやなんだって!」
「女みたいって言われ方、今でもそんなに嫌なのか──声が出たりとか? 胸で感じたりとか? 挿れられた反応とか?」
未だに意識飛ばして現実から乖離するほど嫌だったとは──。
もう昔の話だと思っていた。
機嫌が悪くなる程度だと軽くみていた。
揶揄うのはまずかったか。
透哉は顔が熱くて両手で覆った。
「しゃべったからっ──だから、もう、やめて」
類は指を増やして襞をなぞっていく。
──もしかしたら。
「しゃべったじゃん! やめて──痛ッ」
そんな気はした。
ナカに疵がある。まだ新しい。
「いつまで売ってんだよ」
類が咎めた。
透哉が荒い息で応える。
「ちょっと──頼まれ、て」
「おまえの躰、向いてないからやめとけよ」
透哉の後孔周囲の筋は執拗に他人を拒む。
気をつけて扱わないと怪我をさせる。
類は疵に触らないよう器用にほぐしていった。
「あっ、ぁ、ゃ──」
中々緩まないから時間がかかる。
透哉はそれを焦らしているように感じるのか顔を赤らめて躰をよじる。
「ぁっ、ん、ぁ、やめてっ──」
息が上がって呼吸がつらそうなのであまり長引かせたくはない。基本的に透哉は体力が無さすぎる。
類は、指を抜いて、代わりに自身をゆっくり挿入する。
ずる、と襞が擦れる。
透哉の躰が拒否反応で跳ねて悲鳴をあげた。
「ア゛ァ、ゥ゛」
暴れる透哉を類が叱る。
「急に動くなよ。怪我増えるだろ」
──泣かせたらさすがにまずい。
解っているのに。
とめられない。
透哉の陰茎を操って、後孔が緩んだ隙に少しだけ奥へ進める。
「ぐッ──ア゛ァ、や──だっ」
類は掌を透哉の下腹にあてて外側から温めた。
少しでもナカが楽なように。
透哉が呪詛を吐く。
「しゃべったのに。いやなのにしゃべったのに。こんなの、ゆるさ、ない」
透哉が荒い呼吸をする度にナカが動く。
「これ以上、するなら、許せなくなるから、やめて」
「いいよ。許さなくて別に」
透哉は後孔をゆっくり犯されながら、口を両手で押さえて震えている。
「許せないなら、あの屋敷のときみたいに二度と来なくて良いよ」
類が突き放す。
「もう、やめてよ! やめてって言ったらやめる約束じゃんか」
「二十年間守ってきたよ。その結果がこれでしょ」
透哉は身を縮めている。
ナカを探られて、しこりを直接触られるのが怖いのだろう。
会陰から間接的に刺激されるのさえ苦手なのだ。
「俺としては、感覚切って舐められてるくらいなら、もうこれきりで良いよ。でも、こんなに女みたいだって苛められたことを引き摺るなら、昔、もっと庇ってやれば良かった。唯で手一杯だったから──」
ナカで僅かにしこりにあたって擦れた。
透哉の背中がぐんと反る。
「──ッ、ぐッ」
小さめで柔らかくて解りにくい。
そういやそうだった。
よくよく向いてない躰だ。
透哉の陰茎への刺激を増やしてやると、前立腺のしこりも連動して少し硬くなり狙いやすくなった。
「ぁ、あぁ、ゃだ、離し、ぁ──痛ッ」
疵は避けて突き上げているはずだから「痛いのは腰のほうだろ。それは俺のせいじゃなねぇよ」と言うと「お前が動くから腰に響くんだろ!」と透哉は切羽詰まった声を荒げた。
透哉がここまで感情を露わにすること自体が珍しい。
普段はおとなしくて穏やかで。
言いたいことも飲み込んで。
動きをとめて類が訊く。
「俺の前でくらい、素で、いいじゃん。いやなの」
「いやだよ──普段は、自分を遠くから見てるみたいに勝手になるのに、今日は上手くいかなくて──」
類が構わず再び動きだしたので、透哉はシーツを噛んで耐えた。
「ン゛ッ──ゥ」
──さっき言ったじゃん。
それ。余計、なんか、見てるほうはクるんだって。
綺麗な背中。
折れそうな腰。
長い睫毛が震えている。
意識があるまま後孔を抉られることが耐え難いのだろう。
──泣くな。
あんなに悶えてる姿を見たいと思ったのに、今はもう見ていられなくて、類は自分のものをナカから抜いた。
怪訝そうに振り向いた透哉の口からシーツを離させる。
「俺は、最初に先生のところでお前を見たときから、男に見えてたよ。女に見えたことなんて一度もないよ」
透哉は何も応えない。
ただ類を見つめかえしている。
透哉の腕を引いて上体を起こさせる。
髪を撫でても普段はいやがるのにされるがままになっている。
類は、透哉が、これで最後かもしれないと思って自分を見ている気がした。
許すつもりはない──と。
透哉は自分を守るためにやっただけで、類を欺こうとしたわけではないのだろう。
けれど気づいてしまった以上、今後については許容できない。
──仕方ない。
類自身の余裕がない時期で、腹が立ったのをそのままぶつけてしまった。
もう、それほど怒りはない。
類は、透哉の陰茎をそっと摘んだ。
──せめて最後に。
「いい加減にして!」
「うん」
口だけの肯定。
払いのけようとした透哉の手を掴んでとめる。
ゆっくり形を確かめるように撫で上げる。
「ゃ、やめ、ぁ──」
やっぱり小さいときの声に似ている。
軽く上下に動かすと透哉のほうから類の手に押しつけるように腰が揺れた。
「──ッ、ちが、ぅ、ゃ──」
透哉は、無意識に誘導されてしまった腰に気づいて、無理に押さえつけようと躰をよじった。
「ちが、ぁ、んっ」
「違わねぇだろ」
ほしいだけ刺激を持っていけばいいのに。
さっきから散々あれこれされて中途半端だろうに。
会陰をゆっくり撫でると眉根を寄せて震えて喘ぐ。
「ぁ、いやだって、いゃ、それ、い、ゃ──」
「これ、じれったそうだから、さっき直接ナカから触ったのにいやがったじゃん」
「だって、ぁ、あぁ──」
ずっと緊張を強いるようなことをされて躰中に力を入れていたから、今は疲れて流されている。
苦手な会陰も刺激され、透哉はもう一点に向かうよう誘引されて抗えない。
後孔に指をあてがったが一度びくりとしただけで抵抗は少なかった。侵入してナカのしこりを軽くつつく。
「く、あぁ、いやだっ、ぅぅ、んっ──」
背中が綺麗に反り返って脚にも力が入っている。
元々躰が強くないやつなので、もう、あまり引っ張れない。負担になるだけだ。
陰茎に手をのばし小さな尿道口を狙った。
掠っただけで気づいて首を振っていやがる。
「ッ、んんっ、ぅ──」
感覚を切れてないから怖さがあるのか、腰を庇っているのか、躰を丸めて縮こまろうとする。
「膝、邪魔」
脚に跨って、尿道口を広げながら指先で緩く擦るとぬめって糸をひいてきた。
透哉の陰茎が震える。
「ぁ、あぁ──んぅ、く、ゃ、ぅぅ」
零れてくる体液を塗りながら陰茎全体を握りこんでとめると、透哉は反射的に続きほしさに自分で腰を類の手に押しつけてきた。
「ぁ、ちがっ──ゃ、あぁ」
その刺激をねだる姿が可愛いらしい。途中で自覚してその動きを何とか抑えようと足掻いているところも。
でも多分、類にそう仕向けられていることを透哉は良く思ってはないだろう。
今、声を聞かれていることも。
腰を痛めていて逆らえないから、体力がなくて抵抗する力を尽くしてしまったから、もう流されているだけだ。
激しくはしていないが緩い刺激が積み重なっていく。
陰茎の先端をあやすように撫でると一層腰が揺れた。
「ぁ、ゃっ、もぅ、やっ──」
あやされんのすきだよな。
甘やかしてほしいのだろうか。
プライドが高いくせにややこしい。
ちゅ、と弄り続ける先端からの濡れた音にびくっと透哉の躰が跳ねた。
上下に緩く刺激しながら、しつこいくらい尿道口を優しく苛めると、ぎゅうと類の上着に両手でしがみついて全身を震わせた。
無意識に掴んだのだろうが類は少し後ろ髪を引かれる思いでその細い指を見た。
「もぅ、ゃ、あ、ぁっ──」
手の中に生温かい液体が吐き出される。
長く痙攣している様を見下ろしながら、類はこれで終わりかもしれない──と思った。
※ ※ ※
横たわる透哉の後孔に薬を塗る。
「ン゛──ッ」
またシーツを噛むから──。
「お前その姿、俺に見せると最初に戻るよ?」
透哉の応えはない。
壁側を向いた背中。
骨が目立つ。
痛々しいほど細い腰。
きっと無理な生活をしている。
「ちょっと頼まれたって何だよ」
訊いても透哉の応えはない。
「売ってんの? やめな。仕事先くらい、俺でも二階堂でも──先生だって」
透哉は背中を向けたまま言う。
「また施し?」
「違うだろ。普通に心配して──」
伝わらない。
プライドが高い。
やっぱりこれきりだろうか。
去るものは追わない。
仕方がない。
「──あのさ」
透哉が首だけ振り向いて言った。
「僕が──例えば玩具使ったら類は感覚を切らざるを得ないんじゃない」
「え」
一瞬、類は嫌そうな顔をした。
無機質な刺激──振動や電流は苦手だ。
口元に手を当て考える。
透哉はそれで感覚をオフにするなら自分と同じだと言っている。
真っ直ぐ類の目を見ている。
「──どうなの」
色素の薄い瞳が充血して赤くなっている。
──頼むから泣くな。
「しないよ──すきにさせたら、今後はお前も切らないの?」
訊き返された透哉は少し哀しそうな顔をした。
「──僕、ある程度の刺激があると勝手に切れちゃうんだよ。日常で凄く寒いとかでも切れちゃう」
「お前、それ病気になるからやめろ。寒かったら暖房入れて服着ろよ」
また、応えがなくなった。
夜が明けてカーテンの隙間から光がシーツにあたる。そこには血が点々とついていた。
透哉の血ではない。
そんな失態はしない。
透哉が類の手や腕につけた爪痕から出血したものだ。
類はぺろりと自分で疵を舐めた。
そのまま透哉に目だけ視線を動かして言う。
「玩具でも何でも──すきにしていいから。ごめんな」
頭を掴んで引き寄せる。
腰がよじれて透哉が痛そうに顔を歪めたが、そのままくちびるを舌で割った。
くちびるが離れると、透哉は、鉄の味がする、と言った。
そして、翌週に一人で立てるようになると透哉は──類の前から姿を消した。
了
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